【試乗】AE86 G16E & BEV Concept|4A-Gファンをも唸らせる! 次世代のノスタルジックカー
カテゴリー: トヨタの試乗レポート
タグ: トヨタ / ハッチバック / MT / EV / カローラレビンハッチバック / スプリンタートレノハッチバック / 松本英雄
2024/12/12

トヨタ自動車が送り出す2台のAE86コンセプトモデル
AE86に乗るのは何十年ぶりだろう。搭載される「4A-GEU」はパンチがあるといったものではなかったが、高回転までのクライマックス感を味わえるようなユニットだった。
昔、少しの期間乗っていたAE86ラリー仕様はクロスミッションが入っていて、しかもホイールは泣く子も黙るスーパーラップ038というブリヂストンが企画した超軽量ホイールのプロトタイプを履いたものであった。
ワークスのAE86だったのだろう。時速100km/hまでの加速は最高だった。
私のAE86の思い出は、このウルトラハードなラリーモデルのレビンだが、4A-GEUの魅力は高回転域のサウンドに尽きる。
2台のAE86を目にして、そんなことを思い出していた。

前置きが長くなってしまったが、今回試乗させてもらうのは、新たに架装された「AE86 G16E Concept」&「AE86 BEV Concept」である。
「車好きを誰一人置いていかない」ということを目指し、枯渇していく「4A-GEU」ユニットに対応するため、トヨタ自動車が企画・制作したモデル。まさに「メーカーが本気を出して作った改造車」なのだ。
この両車両、内外装のコンディションがとにかく素晴らしい。当時のものよりも「トロッ」とした塗装からは、“手が入っている車だなー”という印象を受ける。
また、AE86に搭載されるサスペンションは、フロント・マクファーソンストラット、リア・5リンクのリジッド式だが、今回試乗する2台は、そのあたりの形式変更はなさそうだ。
しかし、フロントはピロアッパーマウントになっているため、サスペンションは社外品に交換されていることがわかる。
トヨタが送り出してきた2台のコンセプトモデルはいかがなものか? 試乗時のインプレッションをお届けしよう。
4A-GEUにも劣らぬサウンドが最高な「G16E Concept」
初めに試乗するのは、G16E Concept。
その名の通り、「G16E」という3気筒横置きパワーユニットが搭載されるモデルだ。GRヤリスにはターボ付きのG16E-GTSが搭載されるが、このAE86にはターボなしのNA版が載る。


エンジンルームのG16Eユニットを見ると、オリジナルの4A-GEUとは吸排気が反対になってことに気づく。
エンジンマウントは削り出しで作り出されておりプロトタイプ感がたまらない。高効率のエキマニも美しすぎる。エキマニから後半部分のマフラーはフジツボの特注一品モノだ。
3気筒なので4A-GEUより全長がコンパクトでフロントミッドシップ寄りの配分だ。また、ロングストロークなのでエンジンの高さは否めない。キットカーとして搭載するには、エンジンフードの改良が必須となるだろう。


G16Eの総排気量は1618ccであるから、4A-GEUよりも31ccほどアップされている。
そのため、最高出力はネット値で114psと当時の4A-Gとほぼ同じだが、最大トルクは16.3kgf・mとやや大きい値である。
バケットシートを調整してエンジン始動だ。 G16Eに火を入れた瞬間に野太いエグゾーストノートか響く。
あまりに心地よいサウンドなので、ちょっとばかり空ぶかしをする。正直3気筒だから期待はしていなかったが、やる気が出るサウンドとレスポンスだ。


アイドリングは1450回転くらいだろうか、高めで調整されているので乗りやすそうだ。
ノンパワステのいわゆる「重ステ」なので、細かい切り返しは禁じ手である「内かけ」で操作した。ただし、重量バランスのせいか思ったほど重くはない。
アイドルが高いと1速に入れるときは硬い傾向にあるが、この車はクラッチの切れが良く、T50型の往年のトランスミッションであってもスパッと1速に入る。まぁ整備も完璧だということだろう。
3人乗車で走り出したが、思った以上にトルクフルな性格で、アイドルからクラッチを丁寧にミートさせれば静々と走り出す。

車高が低いこともあって、段差があるところは一輪ずつ鈍角に当てて丁寧に走らせることは言うまでもない。
一般道から首都高速に入る。エンジンは極めてレスポンシブ! 滑らかで乗りやすく、ブレーキフィールも申し分ない。
意味もないのにダブルクラッチで中ぶかしして、シフトアップとヒール&トゥでシフトダウンを決めて……思わず不良化したおじさんになってしまう(笑)。楽しくて仕方がないすべてが若い頃に戻ったようだ。
エンジンとトランスミッションフィールも素晴らしいが、最も感心したのが重量バランスの良さからわかるハンドリングとセッティングの良さである。
この手のショートストロークのサスペンションに精通している人が手がけたに違いない。
もし今後キットカーとして販売するのであれば、すべてひとまとめでお願いしたいと思うほど完璧な動きである。
「返したくない!」と思わず思ってしまうほど、最近乗ったモデルの中では際立ってバランスのいいメーカー系改造車? だと感じた。
名機4A-Gも良質個体も少なくなった昨今、AE86の良さを新たな形で存続するのもうひとつの方向性かもしれない。
早く実現してほしい「メーカー系MOD」である。
「BEV Concept」
続いてはもう1台のコンセプトであるAE86 BEV Conceptの試乗だ。AE86のピュアEVである。
こちらは20分ほどと短時間の試乗であったので、簡単なフィールだけお伝えしたい。



このモデルはトヨタ タンドラのハイブリッドモデルのモーターに、GR86の6速トランスミッションを組み合わせたモデルである。
ロールケージがはりめぐらせたイケイケな86レビンで、見るからに80年代の峠仕様といった印象だ。


最高出力は129ps、最大トルクは15.3kgf・mであるから、ほぼ当時の出力と変わりはないが、電気モーターだけに立ち上がりは速いに違いない。
面白いのは動力をガソリンエンジンからモーターにしただけなので、クラッチとMTの操作は同様だ。
エンジン音は技巧的に作り出されているので、外は静かでも車内はギミックなやる気が出るサウンドが共鳴する。
丁寧にクラッチ操作をして走らせると、とてもいい作り込みで扱いやすい。しかもクラッチ操作が多少イージーでもエンストはしない。もっともEVゆえに“エンスト”ではないのだが……。模擬的に作り出しているところが凝ったところだろうか。
リアには、レクサス NXハイブリッド用のモーターが装着され、完全な2シーターとなっている。気楽に乗れてこれもいい。

エンジンを暖めずに即発進加速が味わえる。6速MTであるがそこまで入れなくても、街中では十分すぎる。
加速も素晴らしく、ギミックなサウンドと相まって、これまた「めちゃくちゃ楽しい!」。

今回は2モデルを一気に試乗したが、個人的にはG16E Conceptの方がノスタルジックを感じた走りができそうで、サスペンションのセッティングが合っていると思う。
一方のAE86 BEVは、雰囲気を味わって流すモデルのように感じた。
いずれにせよ、どちらも正式なキットカー化を望むのである。
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トヨタ スプリンタートレノ(AE86型)×全国▼検索条件
トヨタ カローラレビン(AE86型)×全国
自動車テクノロジーライター
松本英雄
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。車に乗り込むと即座に車両のすべてを察知。その鋭い視点から、試乗会ではメーカー陣に多く意見を求められている。数々のメディアに寄稿する他、工業高校の自動車科で教鞭を執る。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。
今回の試乗車について
「Vintage Club by KINTO」では、旧車のエンジンなどの根幹部品のレストアにおいて、トヨタ自動車とコレボレーションをしている。
その活動の中で、今回の「AE86 BEV Concept」「AE86 G16E Concept」のような新しい価値をユーザーに届け、皆さまの声を聞くためにはどのようなやり方があるかを議論していた。
その結果、10/17(木)~12/20(金)の期間中の毎週木曜/金曜で、GR Garage 東京深川にて、レンタル企画を実施することを決め、事前の抽選(※現在は受付終了)に当選をされた人限定で、約3時間試乗することが可能となっている。
レンタル企画の倍率は、約10倍と多くの人から反響があったようで、全国各地から幅広い世代からの応募があったという。
今後も、このようなサービスが展開されることを期待せずにはいられない!