アクティトラック▲生産終了後、代わりが利かない独自機構を手に入れるために中古車を探す人が増えている

生産終了後、流通台数が急減

2022年9月現在、新車が生産されている軽トラックはスズキ キャリイとスーパーキャリイ、そしてダイハツ ハイゼットトラックとハイゼットトラックジャンボのみになります。日産、マツダ、三菱はスズキから、トヨタとスバルはダイハツからOEM供給を受ける形で軽トラックを販売しています。

ホンダはアクティトラックという独自モデルを生産していましたが、2021年6月に生産終了となり、軽トラック市場から撤退しました。

アクティトラック

上のグラフは、最終型アクティトラックの延べ掲載台数の推移。生産終了となってから掲載台数は減り続けているのがわかる。2022年9月15日時点の流通台数は333台。ピーク時より明らかに減少しました。

アクティトラック

そして上のグラフは最終型アクティトラックの平均価格の推移。2020年末ごろから相場が上昇に転じ、2021年はずっと上昇傾向が続いていました。現在、上昇傾向は落ち着いているものの、平均価格が下がる気配はありません。今後流通台数が今より少なくなると、再び上昇モードに入る可能性は否定できないでしょう。

他メーカーが新車の軽トラックを製造しているのに、なぜ生産終了になったアクティトラックの中古車相場が上昇するのか。その秘密はアクティトラックの独自性にあります。

アクティトラックがどんな軽トラックだったかを振り返っていこうと思います。
 

▼検索条件

ホンダ アクティトラック(4代目)×全国
 

モデル概要:「農道のフェラーリ」の異名が示す、独自すぎるレイアウト

アクティトラック ▲軽トラでMR方式という唯一無二のレイアウトを採用

アクティトラックには、車好きに付けられた「農道のフェラーリ」「農道のNSX」というニックネームが存在します。

スズキ キャリイとダイハツ ハイゼットは運転席の下にエンジンが配置され、後輪を駆動させるFR方式のキャブオーバー型トラックですが、アクティトラックは後輪の前側にエンジンを配置したMRレイアウトを採用。ここから、同じレイアウトであることから「農道のフェラーリ」「農道のNSX」というニックネームが付けられました。

同じようなニックネームが付けられた軽トラックとして、スバルが2012年3月まで製造していたサンバートラックがあります。サンバーはエンジンをタイヤの後ろ側に配置したRRレイアウトを採用。ここから「農道のポルシェ」と呼ばれました。
 

アクティトラック ▲荷台にある四角いふたを外してエンジンルームにアクセスする

ホンダが初めて世に送り出した四輪モデルは、1963年に登場した軽トラックのT360。T360は1967年にTN360へと進化。そして、1977年に初代アクティトラックが登場しました。

T360はエンジンをアンダーフロアに搭載したミッドシップレイアウトを採用。この構造からスポーツトラックと呼ばれることもありました。TN360、そして初代アクティトラックもMRの駆動方式を踏襲。これは最終型となる現行型まで受け継がれたのです。

ホンダが軽トラックでMR方式にこだわったのは、独自の哲学があったと言っても過言ではありません。

たくさんの荷物を積んで走る軽トラックは後輪駆動にするのが基本。前輪駆動(FF)だと荷物を満載して車体の後ろ側が重みで沈み込むと、駆動輪となる前輪が浮き上がってしまう可能性があるのです。

ホンダは、荷物満載時だけでなく空荷のときもしっかり4つのタイヤにトラクションをかけるために、重いエンジンを車体中央に配置したのです。

最終型アクティトラックは2009年12月にフルモデルチェンジ。外観はフロントに小さなボンネットがあるセミキャブオーバー型から、フロントがスクエアな形に変更されました。このデザインを採用したことでキャビンスペースが広くなり、さらにホイールハウスがシート下に配置されたことでペダル操作がしやすいレイアウトが実現しました。

ホイールベースは先代より520mmも短い1900mmに設定。さらにタイヤのキレ角を大きく設定したことで、最小回転半径は4.3m→3.6mに縮小され、路地裏や細い農道での取り回しがしやすくなりました。
 

アクティトラック ▲3.6mという最小回転半径は、デビュー時には軽トラックNo.1の数字だった

最低地上高は185mm確保されているので、凸凹道でも車体下をぶつけにくくなっています。
 

アクティトラック ▲最低地上高が高くホイールベースも短いので、ボディ下部を地面にぶつけにくい

現在、軽トラックはアウトドアシーンでも需要が高まっています。しかし本来の利用用途は仕事の道具。荷物をガンガン積んでどんなところでも走るので、当然荷台には多くの傷がつきます。

傷がつけばそこから錆が発生しやすくなりますが、アクティトラックはデビュー時にクラストップレベルの防錆性能を誇りました。軽トラを長く使ううえで、これは地味だけれど重要な性能です。
 

 

中古車相場:快適装備が充実したグレードは総額80万円前後から見つけやすい

アクティトラック ▲ピラーが細いので視界は良好。運転席は110mmの前後スライド機能を設定

アクティトラックのグレード構成は以下のとおり。
■STD(2WD・5MT):積みに徹したベーシックグレード
■SDX(2WD・5MT/3AT 4WD・5MT):キャビン後方に鳥居を装備
■アタック(4WD・5MT):ウルトラロー/ウルトラリバースギアを備える農業仕様
■タウン(2WD・5MT/3AT 4WD・5MT):キーレスエントリーやパワーウインドウを装備

中古車の価格帯は総額40万~220万円となっています。

アクティトラックの中古車は5MTが中心で、AT車は全体の2割強程度。ATの中古車は総額60万円前後から見つかります。4WDの中古車は180台ほど流通していて、ATの中古車と同様に総額60万円前後から見つかります。

 
アクティトラック ▲荷台にはりんごコンテナ48個、みかんコンテナ52個を積むことが可能

流通量が多いグレードは鳥居が標準装備となるSDXで、台数は240台ほど。このグレードは装備が充実しているわけではなく、マニュアルエアコンもオプション設定でした。軽トラでも最低限の快適装備は欲しいという人は上級グレードのタウンがオススメ。

 

タウンの中古車は50台ほど流通していて、価格帯は総額50万~160万円。低価格帯は走行距離が10万kmを大きく超えるものが中心ですが、総額80万円くらいから走行10万km未満の中古車が見つけやすくなります。

 

アクティトラックの中古車で注目したいのが、2018年11月に発売された特別仕様車のスピリットカラースタイル。これはホンダ初の四輪車であるT360の誕生55周年を記念した特別仕様車で、T360をイメージした「ベイブルー×ホワイト」、ホンダのパワープロダクツをイメージした「フレームレッド×ブラック」の2つのカラースタイルが設定されました。
 

アクティトラック ▲アクティトラック スピリットカラースタイル

スピリットカラースタイルの中古車はその希少性からマニアの間で人気が高いモデルとなっていて、中古車の価格帯も総額120万~220万円と高値で取引されています。流通台数も執筆時点で5台とかなり少ないですが、代わりが利かないグレードなので欲しい人は見つけたら即購入を!

 

▼検索条件

ホンダ アクティトラック(4代目)×全国

※記事内の情報は2022年9月15日時点のものです。

文/高橋満 写真/ホンダ

高橋満(たかはしみつる)

自動車ライター

高橋満(BRIDGE MAN)

求人誌編集部、カーセンサー編集部を経てエディター/ライターとして1999年に独立。独立後は自動車の他、音楽、アウトドアなどをテーマに執筆。得意としているのは人物インタビュー。著名人から一般の方まで、心の中に深く潜り込んでその人自身も気づいていなかった本音を引き出すことを心がけている。愛車はフィアット500C by DIESEL