「フィアット 500は後悔するからやめとけ」は本当か? 輸入中古車評論家がお答えします!
2023/07/24
フィアット 500は「やめといた方がいい車」なのか?
いわゆる「オシャレな輸入コンパクトカー」に乗りたくてたまらない年頃である姪っ子(23歳)から先日、ポポーンとLINEが来た。
「フィアット 500にすごく興味があるんだけど、ネットを見ると『後悔』『やめとけ』みたいなワードばかりでビビってる。輸入中古車評論家として活躍(?)してるらしい叔父さんはどう思う?」
なかなか難しい質問ではあるが、かわいい姪っ子のため、私は真摯に返信した。返信の要旨は「選び方はちょっと難しいけど、ちゃんと選べば大丈夫だよ」というものだった。
そのときの姪っ子への返信内容の詳細を、フィアット 500およびその派生モデルの中古車を検討している皆さんのため、ここにご紹介しよう。
シリーズ概要:フィアット 500ってどんな車?
ひと口に「フィアット 500」といっても、実は大きく分けて4つのモデルが存在する。ひとつずつ見ていこう。
500シリーズの中核となるのが、3ドアハッチバックである「フィアット 500」だ。
フィアット 500は、「ルパン三世」が劇中で乗っていることでも知られる往年のイタリア製コンパクトカー「フィアット NUOVA 500」のオマージュモデルとして2008年3月に登場したFF(前輪駆動)のコンパクトカー。
ボディサイズは全長3545mm×全幅1625mm×全高1515mmとコンパクトだが、いちおう大人4人が普通に乗ることができる。
当初の搭載エンジンは1.2L 直4 SOHCで、トランスミッションは「デュアロジック」という5速のセミAT。同年5月には1.4L直4DOHCエンジンが追加され、2010年8月には5MTの「1.2スポーツ」も追加。
さらに2011年3月には0.9L 2気筒ターボという、ちょっと変わった方式の「ツインエアエンジン」を追加したのち、2016年1月にマイナーチェンジを実施。内外装デザインを微妙に変更するとともに、LEDデイライトと5インチのタッチスクリーン式カーオーディオが採用された。
そして現在に至るわけだが、その間、数限りないほど様々な「限定車」が登場しているというのも、フィアット 500という車の特徴だ。
フィアット 500Cは、2009年6月に追加されたフィアット 500のオープンモデル。
といってもガバっとフルオープンになるタイプではなく、ピラー(柱)を残してルーフ前端からリアウインドウの位置までソフトトップが開く方式。
そのため、適度な「囲まれ感」があるタイプのオープンカーだ。エンジンやトランスミッションなどは、フィアット 500と同一。
2015年9月に上陸したクロスオーバーSUV。
ボディサイズはフィアット 500よりもふた回り大きい全長4250mm×全幅1795mm×全高1610mmで、車台も、同じグループに属するジープの「レネゲード」というSUVと共用している。
駆動方式はFFと4WDで、当初の搭載エンジンは1.4L直4ターボ。4WD車のトランスミッションは9速ATだが、FF車は6速のデュアルクラッチ式ミッションを採用。2019年5月に内外装デザインを微妙に変更し、同時にエンジンも1.3Lの直4ターボに刷新された。
2022年4月に導入されたフィアット 500の電気自動車バージョン。
ボディサイズはエンジン車のフィアット 500より少し大きい3630mm×全幅1685mm×全高1530mmで、容量42kWhの駆動用バッテリーと、最高出力118psのモーターを搭載している。一充電あたりの航続可能距離(WLTCモード)は335km。
フィアット 500シリーズそれぞれの中古車を選ぶ際の注意点というか、ネットでしばしば言われている「買うと後悔する」「やめておけ」みたいなことにはならないはずの探し方を以下、シリーズごとにご紹介しよう。
500の鬼門はセミATの「デュアロジック」
まずは3ドアハッチバックである「フィアット 500」について。
この車のやっかいなポイントは、「デュアロジック」というセミオートマチックのトランスミッション(変速機)だ。
それが必ず壊れるわけでもないのだが、まぁ実際壊れて大変なことになっているケースもあるため、ネット上では今日も「フィアット 500はやめとけ」「後悔するぞ」みたいなワードが乱れ飛んでいるわけだ。
ややこしい機械の話はなるべく割愛するが、デュアロジックというのは普通のATと違い、「MTのクラッチ操作を、人間の左足に代わって機械が自動的に行ってくれるトランスミッション」とでもいうべきもの。見た目的にはATで、免許的にもAT限定免許で運転できるのだが、機構としてはMTと同じなのである。
で、MT車に乗り慣れていない人がデュアロジックの車に乗ると、本来ならアクセルペダルを戻すべきタイミングで戻さなかったりするため、どんどんクラッチ板という板が摩耗していくなどする。そしてそのうち、「……変速しなくなっちゃった」みたいな事態に陥るわけだ。
また、MT車に乗り慣れていない人というのは(一般論として)車のメカニズムや整備に無頓着であることも多く、本来なら2万kmごとを目安に交換すべき「デュアロジックオイル」という油を、ぜんぜん交換しないまま乗り続けたりもする。
そうすると必然的に(?)デュアロジックは故障し、その部品全体を交換するにはおおむね30万円(部品代が約20万円で、工賃が約10万円)のお金がかかってしまうことになるのだ。
デュアロジックに埋まっているかもしれない“地雷”を回避する方法は?
フィアット 500の中古車において、そういったドツボにハマるパターンを回避するためには、おおむね以下の指針に基づいて物件選びを行うことが肝要となる。
1. フィアット 500またはイタリア車全般を得意としている販売店で購入する。
2. 「走行距離3万km台まで」をひとつの目安にする。
3. 「総額70万円以上」を目安とする。
ひとつずつご説明しよう。
まず1の「フィアット 500またはイタリア車全般を得意としている販売店で購入せよ」という話だが、これを実行してもデュアロジックのリスクをゼロにすることはできないが、リスクを低減させることはできる。
国産車メインの販売店にポツンと1台だけ置かれているフィアット 500より、イタリア系の車を得意とする販売店に置かれているフィアット 500の方が、そもそもの仕入れ時に、機械の状態や整備履歴を吟味されている可能性が高いからだ。
まぁこれは「絶対」ではなく「可能性」の話にしかならないわけだが、「失敗の可能性」は低めるに越したことはないのである。
お次、2の「走行距離3万km台までを購入の目安とせよ」というのも可能性の話であり、「絶対」ではない。なぜならば、世の中には10万kmぐらいでもぜんぜんOKなデュアロジックもあれば、3万kmぐらいで壊れてしまうデュアロジックもあるからだ。
とはいえ「可能性の話」としては、整備と扱い方に無頓着だったオーナーが乗っていたフィアット 500のデュアロジックは、おおむね5万~6万kmぐらいのタイミングで逝くケースが多い。であるならば、走行距離が必ずしもすべてではないのだが、やはり「3万km台まで」ぐらいを目安に購入した方が、成功の確率を上げることができるのだ。
そして走行3万km台ぐらいまでのフィアット 500を購入した後は、常に丁寧な操作を心がけ、2万kmごとを目安にデュアロジックオイルを定期的に交換すれば、そうそう大きな問題は発生しないだろう。
ちなみに上記の「丁寧な操作」とは、具体的には以下のとおりである。
●ドアを開けて乗り込んだ際に聞こえる「キュイイイイーン……」という感じのモーター音が、10秒後ぐらいに消えたことを確認してからエンジンをかける。
●エンジン始動後、しばらくの間はゆっくりめに走る。
●マニュアルモードで変速させる際は、必ずアクセルペダルからいったん足を離す(アクセルペダルを戻す)。
●ATモードで走っている際も、変速されそうなタイミングでアクセルペダルを戻す。
MT車の運転に慣れていない人は、最初は上記のような操作を難しく感じるかもしれない。だが慣れてくれば半ば無意識で、当たり前のように行えるだろう。
次に3の「総額70万円以上であること」だが、これまた「絶対」ではない。中古車の質というのは、必ずしも価格の高低と比例しているとは限らないからだ。
とはいえ1と2の条件に合致する物件、つまり「専門店が販売している走行3万km台までのフィアット 500」は、おおむね総額70万円以上の値付けとなっている場合が多い。ならばそのプライスをひとつの目印にすれば、成功確率を上げ、そして失敗の可能性を低めることができるはずなのだ。
もちろん中古車というのは、走行距離と同様に「価格だけで判断できる」というモノでもない。そのため「総額70万円以上のフィアット 500なら絶対に大丈夫ですよ!」と言えないのは、筆者としても心苦しいところである。
だが様々な“目印”を複合的に運用していけば、成功確率は飛躍的に上げていけるはずなのだ。
▼検索条件
フィアット 500(現行型) ×総額70万円以上×走行距離4万km未満× 全国500Cの注意点もほぼ500と同様
姪っ子への返信は「フィアット 500のデュアロジック問題」にかなりの分量を割いたわけだが、そこがとりあえずクリアになれば、後は比較的カンタンな話である。
まずオープンモデルであるフィアット 500Cを買いたい場合は、基本となる選び方はフィアット 500と同じである。
つまり、デュアロジックに地雷を抱えている個体をつかむ可能性を低めるため、「専門店にて走行3万km台ぐらいまでの物件を買う」ということだ。ただしその際の価格は、フィアット 500より若干高い「総額90万円以上」というのが目安になる。
またオープンモデルゆえ、購入時は必ずルーフの開閉も行ってみて、動きがシブかったり異音が発生していないかなどを確認する必要はある。
▼検索条件
フィアット 500C(現行型) ×総額90万円以上×走行距離4万km未満× 全国500Xはフツーに探せば問題なし
クロスオーバーSUVであるフィアット 500Xでは、4WD車の場合はデュアロジックではなく一般的な9速ATを採用しており、FF車も「デュアルクラッチ式トランスミッション」というタイプのATが採用されている。
これらは特に壊れやすい変速機ではないため、過剰な心配はいらない。あくまでもごく普通に中古車の状態をチェックすれば――すなわち内外装が荒れていないかを確認し、整備履歴を書類でチェックし、できれば試乗も行ってフツーに走るかどうかを確認すれば、ごく普通の買い物ができるだろう。
▼検索条件
フィアット 500X(現行型) × 全国500eは台数が少なくまだまだお値段は高め
電気自動車であるフィアット 500eは、中古車流通台数もまだ10台前後しかないとということでイマイチ実態をつかめていないのだが、まぁ新しい車であり、特に何らかの問題があるという話も聞かないので、ごく普通に探せばそれでOKだろう。
唯一の問題は「安いモノでも総額400万円以上」という予算感だけか? まぁこれは人による話だが。
▼検索条件
フィアット 500e(現行型) × 全国とにかくフィアット 500シリーズの中古車を狙うにあたっては、絶対に注意すべきポイントは「デュアロジック」だけだ。しかしここまで述べてきたとおり。そこをクリアするというか、リスクを下げる方法はある。
まぁイタリア車ゆえにそこ以外のマイナートラブル(ちょっとした故障)もあるだろうし、その際の修理に使う部品の代金も国産車と比べれば高いわけだが、破産するほど高額なわけでもない。
つまり中古のフィアット 500とは、ちゃんと選んでちゃんと扱うことができるならば、別に後悔もしないし、「やめとけばよかった……」と思うような車でもないのだ。
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。