ハイエース▲トランスポーターとしては一級品! でも、走りについては気になるところも。そんなハイエースの走りはLSD装着で劇的に変わる

ハイエースをキャンプ仕様にカスタムしたいなら、LSDをおさえておこう!

ビジネスユースを前提とした現行型200系ハイエースを、キャンプやウインタースポーツの足として休日に使い倒すユーザーが増えている。自分好みな外観や内装にアレンジでき、キャンプ仕様に仕上がったハイエースを見て「欲しい!」と思った読者もいるだろう。

そんなハイエースだが、乗り味についてはどうしても「商用バンの域を出ない……」というのが正直なところ。アウトドアフィールドへの長距離移動だけでなく街中の走行でも不満を感じることがあるが、実は“とあるパーツ”を装着することで大幅な改善が期待できる。そのパーツの名は、LSDだ。

LSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャル)はスポーツ走行を楽しむような車好きの間ではお馴染みのパーツだが、最近はハイエースをキャンプ仕様にカスタムして楽しむようなキャンパーの間でも「アウトドアシーンで活躍するから」という理由でLSDを装着するケースが増えているらしい(詳しくは記事の後半で解説しよう)。

ただ、新車価格は約239万~419万円とまずまず高額。カスタム代をプラスすると、手の届きにくい高級車の価格帯になってしまう。そこでオススメなのが「車両を中古車でリーズナブルに購入したうえでLSDを装着する」というメニューだ。この方法なら、新車で購入する以上の満足感を得られるはず!

そこでこの記事では、まずハイエースの概要と中古買いの狙いどころを紹介。続いてハイエースにLSD装着する“効能”について、日本の自動車アフターパーツ業界を代表するメーカーOS技研の社長に取材、メリットなどを解説していく。今、ハイエースを狙っている人は、ぜひ参考にしてほしい。

ハイエース ▲プライベートユースはアルファードに譲った……はずのハイエースだったが、実際には趣味の足やファミリーカーとしてのニーズも多い
 

ハイエースのおさらいと中古車の狙いどころ

現行型で5代目となる200系ハイエース。ラインナップは大きくバン(貨物車登録)ワゴン(乗用車登録)に分かれ、さらにボディの長さによってロングスーパーロング、ボディの幅によって標準ワイド、ボディの高さによって標準ルーフミドルルーフ、ハイルーフに分けられる。ちなみにワゴンは全車ワイドボディで、標準ボディが選べるのはバンのみだ。

エンジンは2.0Lガソリンと2.7Lガソリン、ディーゼル(バンとコミューターのみに設定。年式によって排気量、型式が異なる)の3種類。駆動方式では2WD(後輪駆動)とフルタイム4WDがあり、これらボディの違い、パワーユニットの違いとグレードを掛け合わせて膨大なバリエーションとなった。

ハイエースの魅力といえば何といっても、広い車内空間だろう。もともとが積載を前提として作られているだけに荷役性は優秀。キャンプやウインタースポーツ、マリンスポーツなど多くのギアを車に積んで移動したい人たちの足として、もってこいの存在と言える。

ハイエース ▲シンプルだが、質感やデザインは悪くないハイエースのインテリア

新車人気を反映して、中古車市場でも流通量が豊富だ。バンなら4000台以上、ワゴンでも1000台以上がカーセンサーに掲載されている。バンにおけるガソリン、ディーゼルの割合は均等に近い(ワゴンはガソリンのみ)。

年式についてもデビュー直後から最近の物件までほぼ満遍なく分布しており、予算に応じて好きなモデルを選べる状況だ。

18年以上ものモデルライフを通じて何度もマイナーチェンジされているが、中古車を購入するうえで特に注目したいのは下記のとおり。中古車を選ぶ際にはしっかりチェックしておこう。

【2007年8月】
・フロントグリルの形状を変更
・ディーゼルエンジンの型式、排気量(2.5L 2KD-FTV型→3.0L 1KD-FTV型)を変更し、新長期規制に適合

【2010年7月】
・フロントマスク全体の形状を変更
・ディーゼルエンジンを大幅改良し、ポスト新長期規制に適合

【2012年4月】
・イモビライザーを標準装備

【2013年11月】
・フロントマスク全体の形状を変更。

【2017年11月】
・衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense P」を標準装備(レス仕様もあり)
・ディーゼルエンジンの型式、排気量(3.0L 1KD-FTV型→2.8L 1GD-FTV型)を変更
・ディーゼル車のATを4速から6速に多段化
・オートアラームを標準装備

ハイエース ▲デビュー当時の外観。DXグレードのバンパーは未塗装だ
ハイエース ▲2013年11月のMCではフロントまわりのデザインが洗練された

ハイエースは頑丈な作りゆえ、多少古い年式、走行距離多めの物件でも適切なメンテナンスさえされていれば大きな問題はない。ただし、2012年3月以前のモデルには盗難防止装置であるイモビライザーが装着されておらず、車両盗難の被害に遭いやすい点には注意しよう。

乗用ミニバンのような先進安全性を求めるなら、「Toyota Safety Sense P」やVSCが装備された2017年11月以降のモデルが安心。オートアラームが付いて防犯対策も強化されている。

ハイエースを安く手に入れたいなら、バンの2.0Lガソリン車が狙い目。価格帯は幅広いが、例えば2019年式・走行距離4万km・修復歴なしの「バン2.0 DXロング(標準幅・標準ルーフ)」といった物件なら総額180万円前後から狙える。

キャンプ道具や趣味のギアを満載するからトルクを重視したい……というなら、ディーゼルが適しているだろう。ディーゼル車の中古車相場は高くなり、上記と同様の年式、走行距離で「バン2.8 DXロング(標準幅・標準ルーフ)」でも総額260万円~といった状況。ただ、新車価格がガソリン車よりも67万円ほど高い322.7万円~であることを考えると、十分にお買い得感がある。

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トヨタ ハイエース(現行型)×全国

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乗ってみてわかる「ハイエースならではのお悩み」とは?

さて、ここからがいよいよ本題。前半で「何でも積めちゃう積載性優先の作りこそハイエースの魅力。一方、それゆえ乗用車的な走りを求めると不満に感じるところもある」と書いたが、具体的にはどのようなシーンなのか? 乗用ミニバンやSUVからハイエースに乗り替えると、以下のような場面に出くわして困ることがある。

・高速走行でふらつく。横風や轍(わだち)に影響されやすい
・峠道のコーナリングなどで姿勢を乱しやすい
・急勾配の鋭角ターンでタイヤが空転してしまう
・キャンプ場の未舗装路や砂浜、雪道などで割と簡単にスタックしてしまう


実はこれらの問題、原因はほとんど同じ。ハイエース特有の高い重心と硬めのサスペンション、そしてディファレンシャルギア(以下デフ)の作用だ。

ハイエース ▲背が高く、スクエアなボディ形状は高速走行で不利に働く

重心の高さ、サスの硬さによってタイヤが浮きやすくなり、さらにデフの作用によって駆動力が失われてしまうために、こうした不安定さを生じる。

デフの作用を説明すると長くなるので割愛するが、要約すると「カーブなどで各車輪の軌跡が異なるときでも、タイヤの抵抗に応じた回転差を生み出すことでスムーズに曲がれるようにする」機構のこと。

「抵抗に応じた回転差」というところポイントで、タイヤが接地している分には正しく働くが、段差などでタイヤが浮いたり、ぬかるみや雪に踏み入れたりすると空転して駆動力を伝えられなくなってしまうのだ。

そこでデフの作用をちょうど良く制限し、いつでもガッチリ駆動力を伝えられるようにしよう、という目的で作られているのがLSDだ。スポーツ走行好きやオフロード走行好きには必須と言っていいほど有効なパーツだが、OS技研によるとハイエースとも相性バッチリなのだと言う。

今回はより詳しい話を、OS技研社長の何森行治(いずもり・ゆきはる)さんにお伺いした。

 

LSDってなに?装着するとどう変わる?OS技研に聞いてみた!

OS技研 何森行治さん

OS技研社長

何森行治さん

レース用からストリート、旧車、商用バンまで、強化クラッチやLSD、クロスミッションなどの駆動系チューニングパーツを制作している岡山県岡山市のメーカーの社長。自身も車が大好きで、サーキットに出向くこともしばしば。実はOS技研の公式Twitter(@OS_Giken)の中の人なのだとか。

LSDを装着するとどう変わる?

――そもそもどうしてハイエースにLSDがオススメなのでしょうか?

何森社長   ハイエースの場合、道路からコンビニに入る段差程度でもタイヤが浮き、空転してしまうことがあります。普通に走る分には関係ないと思われがちですが、LSDが活躍する場面は街中でも結構あるんですよ。

――具体的にはどんなメリットがあるのでしょう?

何森社長  ずばり「貨物車ベースだから仕方ない」と諦めていた走りの不安定感がほぼ解消します。不意のタイヤ空転でヒヤッとする……といった上記のトラブルが解消されるだけでなく、普段の走りでも「ステアリングに手を添えるだけで真っ直ぐ走る」といったシッカリ感が実現されます。

――正直、LSDはモータースポーツで活躍するパーツだと思っていました。

何森社長  そもそも、LSDは直進性を高める効果のあるパーツ。横風や轍でふらつかないから、高速走行でも疲れにくい……これは長距離を走る一般のドライバーさんにとってもうれしい特性といえます。高速道路を走る機会の多いドライバーさんからも「修正舵が減って運転が楽になった」という好評の言葉を頂いています。

――その気になればスポーティにも走れて、運転も楽に……良いことづくめじゃないですか!

何森社長  キャンプ場や砂浜などアウトドアシーンでの走破性アップ効果も絶大です。ぬかるんでいる道や雪道で足を取られ、脱出できなくなるリスクは大幅に減るはずです!

ハイエース ▲LSDが荒れた路面でもタイヤ空転を抑え、スタックするのを防いでくれる

LSDを装着するデメリットはある?

――しかしメリットがあるなら、デメリットもあるのがアフターパーツの常。LSD装着のデメリットは何かあるのでしょうか?

何森社長  LSDを入れると小回りが利かなくなる……というイメージをお持ちの方がいますが、弊社製品は独自の機構によって必要なときだけデフの差動を適度に制限し、不要なときには通常のデフと同じように機能する構造になっているため、最小回転半径への影響はほぼありません。

――なるほど。必要なときだけ作動するのはいいですね。走行中のノイズなどはいかがですか?

何森社長  かなり昔の製品や極端に安価な製品では走行中にデフ内部から大きな音が聞こえることがありましたが、弊社製品では構造を工夫し、部品の精度を高めた結果、ノイズもほとんど気にならないレベルになっています。

ハイエース ▲OS技研製LSD「OSデュアルコアNEO」の中身。トラクションに応じた制限力を発揮する「トルク感応型」と呼ばれるタイプだ。摩擦板数の多さ、スパイラル形状になったサイドギアも特徴がある

何森社長   LSDが装着されていることをドライバーに意識させず、ごく自然に直進安定性や走破性を高めてくれるのが弊社製品の持ち味。ただし、メーカー純正の電子制御式LSDのように車の姿勢を自動的に安定させる機能はないので、雨や雪など滑りやすい路面でアクセルをラフに扱うなど、運転の仕方によってはスリップを誘発する可能性もあることは理解しておいてください。逆に言うと、ドライバーの意思次第で安定志向の走りにも、アグレッシブな走りにも対応できるということです。

――デメリットというよりも、当たり前のことですね。LSDを装着した車の特性をしっかりと理解したうえで運転することが大切、と。

何森社長   強いてデメリットを挙げるなら、やはりコスト面でしょうか。OS技研製品の場合にはなりますが、製品価格は約18.5万~21万円(税込)、その他純正部品が1万円。装着にかかる工賃はショップによって異なりますが、一般的に4万~7万円ほどです。また使用するオイルも専用品で、一般的なデフオイルよりもやや高額です。

――だからこそ、今回は中古で安くハイエースを手に入れて、LSDを装着するということをオススメしたいですね。

何森社長  ただ、弊社のLSDは“一生モノ”と評されるほど耐久性が高いので、走りが改善されるのはもちろん、駆動系がやれている個体のリフレッシュという意味でも、コスト以上のメリットが期待できると思いますよ。

LSDはどこで装着できるの?

――OS技研のLSDは寿命ってどれくらいなんですか?

何森社長  適切にメンテしていれば、車両本体の寿命がくるまで十分に使うことができます。

――購入してから手放すまで使えるってことを考えれば、決して高い買い物ではなさそうですね。ちなみに、購入&装着したいと思ったときはどこに行けばいいのでしょうか?

何森社長  ハイエースが得意なプロショップ、チューニングショップなら、ほとんどの店でLSDを購入&装着できます。OS技研に問い合わせていただければ、最寄りの取扱店をご紹介することも可能です。また、全国にあるトヨタディーラーの中でカスタマイズやチューニングの専門店として認定された店舗「GRガレージ」も対応しているので、車検や整備はディーラー派という人も安心ではないでしょうか?

――ディーラーでも対応してくれるんですね! OS技研さんのHPを拝見すると、LSDといってもいろいろな種類がありますね。

何森社長  OS技研のLSDにはハイエース用だけでも、比較的効きがマイルドなもの、しっかり効いてくれるもの、オーダーメイドで効きを設定できるものなど、多彩なバリエーションがあります。もちろん、バンorワゴン、ガソリンorディーゼルの区別なく全車種に対応していますよ。購入の際には、OS技研に使い方や求める乗り味をご相談いただければと思います。

――2WDだけじゃなく4WD用のLSDもあるんですね?

何森社長  もちろんです! それだけじゃなく、VSC(横滑り等抑制装置)&TRC(トラクションコントロール)などの電子デバイスやToyota Safety Senseが装着されているモデルにも対応しています。

▲LSDの働きがよくわかるOS技研の解説動画

外からは見えないところで、ハイエースの走りを一段も二段もレベルアップしてくれるLSD。キャンプなどの趣味で活用したい人はもちろん、長距離移動が多い人、街乗りメインの人、峠道をスポーティに走りたい人など、あらゆるハイエース・ユーザーにとって恩恵のあるパーツだ。

ちなみに、LSDについて何か疑問があれば、OS技研のTwitter(@OS_Giken)で問い合わせてみるのもオススメ。Twitterの中の人、実は何森社長本人(!)なのだとか。ユーザーからの素朴な疑問にも気さくに回答しているので、ぜひチェックしてみよう!

▲LSDを装着することで驚くほど動きが変わる。ぜひ動画でも!

※記事内の情報は2023年1月27日時点のものです。
 

文/田端邦彦 写真/OS技研、トヨタ
田端邦彦(たばたくにひこ)

自動車ライター

田端邦彦

自動車専門誌で編集長を経験後、住宅、コミュニティ、ライフスタイル、サイエンスなど様々なジャンルでライターとして活動。車が大好きだけどメカオタクにあらず。車と生活の楽しいカンケーを日々探求している。プライベートでは公園で、オフィスで、自宅でキャンプしちゃうプロジェクトの運営にも参加。