「欠点だらけの車、アルファロメオ GTV」を、それでも猛烈にオススメする理由【EDGE Second Line】
カテゴリー: 特選車
タグ: アルファ ロメオ / アルファGTV / EDGEが効いている / 伊達軍曹
2022/03/29
栄えある「格安名車」を探し出せ!
こちらは3月27日発売の雑誌カーセンサーEDGE 5月号に掲載された、自動車評論家・永福ランプ(清水草一)さんの人気連載「EDGE Second Line」の、担当編集者から見た別側面である。アナログレコードで言うB面のようなものと思っていただきたい。
なお「EDGE Second Line」というのは、「車両価格が手頃=エラい! 賢い! おしゃれ! と定義したうえで、栄えある格安名車を探し出そうじゃないか」というのが、そのおおむねの企画趣旨である。
で、カーセンサーEDGE 5月号の同連載で取り上げた中古車は、2004年式のアルファロメオ GTV 3.2 V6 24V。走行5.8万kmで車両価格268.8万円という個体であった。
この個体に限らずアルファロメオ GTVは、「内燃機関で動くタイプの車が好きな車好きであれば今、絶対にサルベージしておくべき存在である」というのが、B面担当者の結論だ。
そう結論づけた根拠について述べる前に、アルファロメオ GTVという車についての概要をざっくりとご説明しておこう。
鬼才の筆によるデザインは当初「賛否両論」だった
アルファロメオ GTVは、日本では1996年1月から2006年4月まで販売されたアルファロメオのスポーティクーペ。
エクステリアデザインは、当時ピニンファリーナに在籍していたエンリコ・フミアが担当。超ウエッジシェイプ(くさび型)なフォルムと、フロントフェンダー下部からリアのトランクに至る大胆な斜めのキャラクターライン、そしてプロジェクターランプを用いた丸目4灯のヘッドライトは、当初はかなり好き嫌いが分かれたようだ。
というか、特に丸目4灯ヘッドライトは「カッコ悪い」とされるケースの方が多かったわけだが、現在では「さすがはエンリコ・フミアによるデザイン! 絶妙だ!」と評されるケースの方が多くなっているように思える。
発売当初、つまり1996年モデルパワートレインは「排気量2LのV6 SOHCエンジン」というちょっと特殊な方式だったが、1997年モデルから一般的な3LのV6 DOHCとなり、1998年モデルからは、それまで5速だったトランシミッションが6MTに進化。また日本仕様はハンドル位置が左から右になるなどの変更も施された。
そして2003年には再び大きな変更を受け、フロントグリルのデザインを一新するとともに、V6エンジンの排気量を3.2Lに拡大。また2L直列4気筒のツインスパークエンジンがGTVに設定されたのもこのタイミングだ。ちなみにこのとき、ステアリング位置は再び左に戻されている。
初期の2L V6 SOHCについては割愛するが、流通のメインとなっている中期3L V6 DOHCは最高出力220ps(2001年9月からは排ガス規制の関係で218ps)で、2003年7月からの3.2L V6 DOHCは最高出力240ps。そして同時期の2L直4ツインスパークエンジンは同150psをマークした。
正直いろいろ欠点はある。だが乗るとそんなことは忘れてしまう!
以上のとおりの概要となるアルファロメオ GTVは――筆者は元オーナーなのであえて自信をもって強めに言うが――まぁひどい車である。
最小回転半径がやたらとデカいため、普通なら一発で簡単にUターンできるような道でも3回は切り返さなければならない。
V6 DOHCエンジンの場合、メーカーがどう指定していたかは知らないが、実質的には「3000kmごと」を目安にエンジンオイルを交換しないと、ちょっと大変なことになる。
燃費は「極悪」というほどではないが、少なくとも「悪い」とは言える。
右ハンドル車の場合、ブレーキを制御する補機類は左に置かれたままなので、速い車であるにもかかわらずブレーキフィールは今ひとつで、そのためちょっと怖い(いちおうちゃんと利きますが)。
筆者の場合、丁寧に扱っていたつもりだったが、気がついたらブレーキホースのカバーが完全に裂けていた。
……外野のイメージに反して特段「壊れやすい車」というわけでもないのだが、上に記したようなイマイチな点は枚挙に暇がないのが、アルファロメオ GTVという車なのだ。
そのような「問題児」であることは間違いないアルファロメオ GTVなのだが、困ったことに一度運転してしまうと、特に3Lまたは3.2LのV6DOHCエンジン搭載グレードは「すべてのネガがもうどうでもいい! ただただこのエンジン音に聞きほれ、魔性の回転フィールとパワー感に酔いしれていたい!(そのために燃料代や修理代がいくらかかっても構わない!)」と、人に思わせてしまう車でもあるのだ。
これだけの快感エンジンは2022年の今、絶対に生まれないはず
詳しいことは割愛するが、アルファロメオ GTVが搭載したV6 DOHCエンジンは、トリノ生まれのエンジニアであるジュゼッペ・ブッソが1979年に作った超名作エンジン、通称「ブッソーネV6」の直接の末裔である。
当初SOHCだったブッソーネV6は途中からDOHCになり、排気量も2Lの他に2.5L、3L、3.2Lというバリエーションが生まれていった。だがすべてのブッソーネV6に共通しているのは「ガソリンとオイルはけっこう食うが、その分だけ死ぬほど官能的に回る」ということだ。
そんなエンジンを搭載しているアルファロメオ GTVであるからこそ、そして鬼才エンリコ・フミアの筆による「得も言われぬ造形」を持っているからこそ、エココンシャスなエンジン……というかハイブリッドと電気モーターだらけになり、そして四角四面なデザインの車だらけになってしまった今、あえて選ぶ意義があるのだ。
なぜならば、もはやそんな車は――ないわけではないが――アルファロメオ GTV以外にはきわめて少なく、そのアルファロメオ GTVの中古車も今、絶滅の危機に瀕しているからだ。
絶滅は近いかも? 本気で急いだ方がいい!
筆者が今から10年ほど前に99年式の3.0 V6 24Vを購入した頃は、まだそれなりに豊富に流通していたアルファロメオ GTVだったが、その後は減少の一途をたどることになった。
参考までに、筆者が昨年(2021年)2月に別媒体向けにGTV関連の記事を書いた時は、カーセンサーnetでの掲載台数は全国で19台だった。しかし今(2022年3月)、その台数は14台にまで減っている。
この数字を「意外と持ちこたえてる」と取るか、「やはり絶滅が近いのか……」と取るかは人それぞれだろう。
だが少なくとも言えるのは、アルファロメオ GTVの中古車流通台数は――特にそのV6 DOHCエンジン搭載車の台数は――明確な“ダウントレンド”を描いているということだ。
それがいつになるかは誰にもわからないが、いつか(たぶん)必ず、アルファロメオ GTVという存在は伝説というか幻になってしまうだろう。「そういえば、10年ぐらい前まではアルファロメオ GTVっていう気持ちいいエンジンの車が買えたらしいね。自分は写真でしか知らないけど」
そんな会話をする未来人が、きっと現れるのだ。
だからこそ今、冒頭付近で申し上げたとおり「内燃機関で動くタイプの車が好きな車好き」に、この車をサルベージしていただきたいのである。
燃費は良くないし、オイル交換は頻繁にしなければならないし、ついでにUターンも苦手だが、それらの欠点を補って余りある魅力が、アルファロメオ GTVにはある。
本当であれば触媒の数が少なかった3L V6エンジン搭載の中期型こそがイチ推しではあるのだが、今さらもうそこはどうでもいいだろう。ここで紹介している3.2LのV6でも十分以上に素晴らしい。
車というものが好きであると同時に「エンジン」が大好きだという人は、ぜひ。……筆者が言いたいのはただそれだけだ!
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アルファ ロメオ アルファGTV(初代)×全国自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。