ポルシェ マカン ▲ポルシェ初のコンパクトSUVとして2014年に登場したポルシェ マカン。写真はオーラッシュ東名横浜が販売する走行5.3万kmの2016年式ベースグレードで、支払総額は447.7万円

栄えある「格安名車」を探し出せ!

こちらは1月27日発売の雑誌カーセンサーEDGE 3月号に掲載された、自動車評論家・永福ランプ(清水草一)さんの人気連載「EDGE Second Line」の、担当編集者から見た別側面である。アナログレコードで言うB面のようなものと思っていただきたい。

なお「EDGE Second Line」というのは、「車両価格が手頃=エラい! 賢い! おしゃれ! と定義したうえで、栄えある格安名車を探し出そうじゃないか」というのが、そのおおむねの企画趣旨である。

で、カーセンサーEDGE 3月号の同連載で取り上げた中古車は、2016年式ポルシェ マカンのベースグレード。走行5.3万kmで支払総額447.7万円という個体であった。

この個体に限らず中古車としてのポルシェ マカンは今、「なんとも微妙な存在というか、より正確には“悩ましい存在”である」というのが、B面担当者の結論だ。

そう結論づけた根拠について述べる前に、ポルシェ マカンという車についての概要をざっくりとご説明しておこう。
 

ポルシェ マカン▲雑誌「カーセンサーEDGE 3月号」で取材した2016年式ポルシェ マカン。最高出力237psの2L直4ターボエンジンを搭載するベースグレードで、ベースグレードではオプション装備だった「ポルシェ エントリー&ドライブシステム」や「PCM(ポルシェ・コミュニケーション・マネージメントシステム)」などが装着されている

コンパクトSUVだが、日本基準で言えばミドルサイズに相当

ポルシェ マカンは、日本では2014年2月に予約注文がスタートしたポルシェ初のコンパクトSUV。コンパクトといってもそれは「世界基準で言えば」であって、実際のボディサイズは全長4680mm×全幅1925mm×全高1625mmと、日本の道路においてはまあまあ堂々たる寸法という印象になる。

基本設計は先代のアウディ Q5と共有されており、車台もQ5と同じフォルクスワーゲングループの「MLBプラットフォーム」を採用。だがQ5よりもさらに幅広く、低くなったフォルムや、「まさにポルシェデザイン!」としか言いようのない全体の造形により、アウディQ5との共通性を見いだすのは困難だ。

さらに言えば、ポルシェ マカンの基本骨格は確かに先代アウディ Q5をベースとしているが、実際にはライプチヒ工場で専用に生産されており、車体の隅々まで「マカン専用仕立て」となっている。
 

ポルシェ マカン▲2L直4ターボのベースグレードは、上級グレードであるマカン ターボと比べて150kgほど軽量。タイヤサイズは前が235/60R18で後ろが255/55R18。取材車両はオプション装備だったマカンS用18インチホイールを履いている

で、まず最初に受注開始となったのは、最高出力340psの3L V6ターボを搭載する「マカンS」と、同400psの3.6L V6ターボエンジンを搭載した「マカン ターボ」の2種類。ドライブトレインは両者共通で、トランスミッションは7速DCTの「PDK」、駆動システムは電子制御式マルチプレートクラッチを用いたアクティブ4WDシステムとなっている。

2014年4月には最高出力237psの2L直4ターボエンジンを搭載する「マカン(要するにベースグレード)」が追加され、2017年6月には、マカンSのエンジンをさらにパワフルにしたうえでスポーツシャシーも与えられた「マカンGTS」も登場。

そして2018年12月にはマイナーチェンジが行われ、新デザインの4灯式LEDヘッドライトや「PORSCHE」のロゴが入ったリアガーニッシュ、4灯式ブレーキランプを内蔵する新しいテールライトなどといった、他のシリーズとの関連性を印象付ける特徴的な意匠を採用。さらにインテリアも一新し、10.9インチに拡大したフルHDタッチスクリーンを採用した他、歩行者検知機能を含むブレーキアシスト機能やアダプティブクルーズコントロール、レーンチェンジアシストなども標準装備した。

そしてさらに2021年7月にも一部改良を行い、全モデルのエンジン出力を大幅に向上させるとともに、内外装デザインもリフレッシュ。そのうえで、現在も好調なセールスを記録し続けている――というのが、ポルシェ マカンというコンパクト(?)SUVの、今現在までのざっくりとしたヒストリーだ。
 

ポルシェ マカン▲2016年式ポルシェ マカンのインテリア。内装色は「ブラック」「ルクソールベージュ」「アゲートグレー」の3色から選択可能だった

ブランド価値は他の追随を許さず。だがその分だけ相場は高め

さて。そんなポルシェ マカンというSUVの中古車に対して、筆者は冒頭付近で「なんとも微妙な存在というか、より正確には“悩ましい存在”である」と申し上げた。

そう考える理由は「マカンは今、車としての魅力と中古車価格とのバランスが悩ましい状態にあるから」である。

ポルシェ マカンという車が「かなり魅力的である」という見解についての反論は少ないだろう。

いや「ポルシェといってもマカンの基本骨格はフォルクスワーゲングループ製じゃないか!」とか、「他社のSUVだってだいたい同じぐらいいいでしょ!」という意見はあるかもしれない。筆者もそこについては、つまりハードウエア単体で見た場合のポルシェ マカンは――もちろんかなり優れてはいるが――超越的な絶対神と言えるほどの何かではないと考えている。

だが「ブランドとしてのポルシェ」は圧倒的なのだ。
 

ポルシェ マカン▲ハッキリ言ってこのエンブレムが目の前にあるだけで、他の車とは気分のアガり方がまったく違う。もちろんポルシェ車ならではの硬質で重厚なステアフィールがあってこそ、ではあるのだが

例えば、もしもサイズ的にも車格的にもマカンと類似した存在であるメルセデス・ベンツ GLCやBMW X3を買ったとしても、そこにはさほどの“ときめき”はない。都市部に住まう多くの人間はメルセデスやらBMWにはあまりにも見慣れてしまったため、どうしたって極度にときめくことは難しいのである。

だが「ポルシェ」は違う。

「ポルシェを買う」「ポルシェに乗る」「『俺の車? えっと、ポルシェです』と知人の質問に答える」。

……上記のどれもが、なんとも甘美な響きを伴うフレーズである。どきどきするし、ゾクゾクする。「内閣総理大臣になる」とか「東大に入る」といったフレーズに近いのかもしれない。ブランドの価値あるいはインパクトという面では、ポルシェはやはり他のプレミアムブランドとは一線も二線も画しているのだ。

しかし、だからこそポルシェ マカンの中古車価格は、競合と比べると若干お高い。具体的には、類似条件車同士で比べた場合は100万円ほど高い。……そこが、なんとも悩ましいのである。
 

ポルシェ マカン▲ポルシェ マカンのフロントシートはこのようなデザイン。取材車両はブラックのパーシャルレザーシート

100万円前後となる“差額”をどう考えるか?

今回の「EDGE Second Line」で取り上げたポルシェ マカンは、先述したとおり「2016年式のベースグレード。走行距離5万km台で、支払総額は447.7万円」というものである。

総額447.7万円というのは、本体だけで685万円だった2016年の新車価格と比べれば「ずいぶんお手頃になった。買えるかもしれない価格になった」とは言える。

だが類似条件の競合各車は、さらにお手頃価格なのだ。

例えばメルセデス・ベンツ GLC 250 4マチックであれば、走行5万km台の2016年式を総額370万円ほどで探すことができる。取材車両のマカンと比べて「75万円ぐらい安い」ということだ。75万円……なかなかの大金である。

そしてわざわざポルシェを買うのではなく2016年式のBMW X3 xドライブ20d Mスポーツで良しと考えるなら、類似条件の中古車は総額330万円前後でOKになる。これは取材車両のマカンと比べて「110万円以上安い」ということで、110万円といえばもう「天文学的な数字」と言うほかない(←個人的には)。

この75万円から110万円ほどの差額が、なんとも悩ましいのである。

ポルシェ マカンはもちろん素晴らしいハードウエアであり、ブランド価値やそのインパクトにも強烈なものがある。だが決してお金持ちではない筆者としては、やはり金銭的な無理はせず、おとなしくGLCやX3の中古車を買った方がいいのではないか、それで十分というか十分以上なのではないか……と、いつだってぐるぐる自問してしまうのだ。
 

ポルシェ マカン▲トランスミッションは7速PDK(いわゆるダブルクラッチ式トランスミッション)。シフトレバーの周囲に多数の「物理ボタン」が配置されている

今回、あまりにも個人的な心情やフトコロ事情に基づく文章になりすぎたきらいはある。だがポルシェ マカンの中古車が「選択肢としては素晴らしいが、素晴らしいゆえに、相場は競合より高めである」という客観的な状況は、おわかりいただけのではないかと思う。

で、ここから先は人それぞれの事情や考え方に基づいて決めてもらうほかなく、ポルシェというブランドや、競合より若干以上優れていると思われるハードウエアに、75万円から110万円ほどの差額を拠出すべきか否かについての「唯一の正解」はない。

だが少なくとも筆者は、ポルシェ マカンの中古車には差額を拠出するだけのバリューがあると考えている。そのため、現在乗っている某国産ステーションワゴンの次に買う車は、おそらくだが「中古のポルシェ マカン」になるのではないか――と予感しているのだ。

いや本当にポルシェ マカン、欲しいのですよ。今回の取材車両みたいな濃い茶色のメタリック(マホガニーメタリック)もシブいし、鮮やかな水色(マイアミブルー)も超絶ステキなんだよなぁ……。
 

文/伊達軍曹、写真/柳田由人

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伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。