アルファロメオ 156 ▲1998年から2006年まで販売されたアルファロメオの中型セダン「アルファロメオ 156」。写真はエーゼット オート横浜が販売する2000年式2.5 V6 24Vで、走行4.5万km。支払総額は122.9万円

今のうちから注目しておきたい「近未来の名車」を探せ

こちらは10月27日発売の雑誌カーセンサーEDGE 12月号に掲載された、自動車評論家・永福ランプ(清水草一)さんの人気連載「NEXT EDGE CAR」の、担当編集者から見た「別側面」である。アナログレコードで言うB面のようなものと思っていただきたい。

なお「NEXT EDGE CAR」というのは、「今現在はまだ名車扱いされていないが、近い将来、中古車マーケットで名車または名品と呼ばれることになるだろうモデルを探そうじゃないか」というのが、そのおおむねの企画趣旨である。

今回取り上げるのは、アルファロメオ 156 2.5 V6 24V。言わずと知れた官能V6エンジンを搭載した名作だが、それが思いのほか早いタイミングで「絶滅の危機」を迎えている――ということを、今回のB面の主題としたい。
 

アルファロメオ 156▲アルファロメオ 156のフロントグリル。エンブレムにはミラノ市の市章である白地に赤の十字架と、ヴィスコンティ家の紋章である「サラセン人を呑み込む大蛇ビッシオーネ」が組み合わされている

妖艶なフォルムと痛快エンジンでスマッシュヒット

まずはアルファロメオ 156という車についてのごく簡単なおさらいから。

アルファロメオ 156は、日本では1998年5月から2006年2月まで販売された中型のセダン(他にステーションワゴンの「156スポーツワゴン」もある)。

前身のアルファロメオ 155は、日本では人気が高かったものの、本国イタリアでは「四角四面なつまらないデザイン」と酷評されていた模様。しかし後継の156は、いかにもアルファロメオらしい有機的なフォルムを復活させることにより、日本はもとより本国でも高い人気を博した。

日本仕様の搭載エンジンは2L直4 DOHCと2.5L V6 DOHCが基本で、2L直4のツインスパークエンジンには5MTとセレスピード(セミAT)が、2.5L V6には6MTまたはQシステム(MT的なシフトレバーを持つ4速AT)が組み合わされた。
 

アルファロメオ 156▲写真は取材車両である2000年式2.5 V6 24Vのコックピット。2.5 V6 24Vでは4速ATの「Qシステム」も選択可能だったが、取材車両は一番人気の「6速マニュアルトランスミッション」である

1998年5月に発売された最初の世代が通称「フェイズ1」と呼ばれており、2002年7月に2Lエンジンがツインスパークから直噴方式の「JTS」に変わった世代が俗に「フェイズ2」と呼ばれる。

さらに、2003年9月に外観デザインを変更し、ジョルジェット・ジウジアーロがデザインした「アルファロメオ ブレラ」のそれに似たフロントマスクを採用した世代が「フェイズ3」とされている。また、さらに2004年1月には、外観とホイール、サスペンションを少々変更した「TI」も追加された。
 

アルファロメオ 156▲こちらが2003年9月以降の通称フェイズ3。そのフロントマスクのデザインは好き嫌いが分かれるかも

また、この他2002年7月には、ちょっとスペシャルな3.2L V6エンジンを搭載した「156 GTA」ならびに「156 GTAセレスピード」が登場している。

中古車市場で人気が高いのはフェイズ1&2の2.5L V6 とフェイズ1の直4ツインスパーク、およびスペシャルな3.2L V6のGTA。直噴化されたフェイズ2の2L直4「JTS」と、フロントマスクが変更されたフェイズ3の人気はさほどではない。

また、トランスミッションの種別では、アルファロメオの場合はやはりMTの人気が高く、セレスピードとQシステムの人気はぼちぼち程度。特にセレスピードは故障発生の可能性が正直高いということで、やや敬遠される傾向にある。
 

2.5LのV6は比較的お手頃だが、価格とはまた別の問題が?

……という具合なアルファロメオ 156なわけだが、まぁ長々と説明した前章の内容をかいつまんで言うなら、「一番人気はフェイズ1&2の2.5L V6のMT車か、GTAのMT車。なぜならば、それらが156の中では最も美しく、エンジンと操縦感覚が気持ちいいから」ということだ。

そして現在の中古車相場は、おおむね下記のとおりとなっている。

●156 2.5 V6 24V(6MT)フェイズ1&2|総額80万~200万円
●156 GTA(6MT)|総額180万~300万円

3.2LのちょっとスペシャルなV6 DOHCエンジンを搭載しているGTAはさすがに少々お高めだが、2.5L V6の通常モデルであれば「まあまあお手頃」と言える程度の相場である。それゆえ、アルファロメオ 156については下記のように考えている方も多いだろう。

「156のV6エンジンはすごく気持ちいいらしいから、そのうち機会があれば買ってみようかな」
または、
「156のV6エンジンはすごく気持ちいいから、そのうちもう一度乗ってみようかな」

前者は「156またはアルファロメオ製V6エンジンのことを、知ってるけど、買ったことはない人」で、後者は「以前乗っていたが、今は乗っていない人」だ。

いずれも共通しているのは「そのうち」である。今すぐに買うつもりはないが、まぁそのうち気が向いたり機が熟したりしたら、アルファロメオ 156 V6のMT車を買おうかな、どうしようかな――ってな具合にのんびり構えているわけだ。

それはそれで結構な話ではある。だが、貴殿の「そのうち」は、残念ながら実現しない可能性も高い。

なぜならば、珠玉のV6エンジンを搭載したアルファロメオ156のMT車の流通量は今、なかなかの勢いで減り続けているからだ。
 

アルファロメオ 156▲アルファロメオ 156のV6グレードに搭載される2.5L V6 DOHCエンジン。1979年に発表された往年の名機「ブッソーネV6エンジン」の直接の末裔であり、音もフィーリングも、そして見た目も素晴らしいエンジンだ

「V6の6MT」は、実質的には全国で数台しか流通していない?

正確なデータは筆者の手元にはないが、3年ほど前は、カーセンサーnetをパッと開けば、おおむね50台ぐらいの「V6でMTの156」がズラリと掲載されていたものだ。

だが直近(2021年10月下旬)のそれは、下記のとおりでしかない。

●アルファロメオ 156全車の流通量|43台
・そのうちフェイズ1&2の2.5 V6 24V(6MT)|11台
・そのうちGTA(6MT)|2台

「全体で43台」というのも相当なものだが、2.5L V6のMT車に絞ると全国で11台しか流通していないのである。その11台の中で、自分的にピンとくる状態&価格のモノとなると……実質的には「日本全国に数台しか流通してない」というのが、直近のV6系156のMT車なのだ。

これが3.2L V6のGTAになると状況はさらに悪化し、上で記したとおり全国で2台しか流通していない。その2台が自分にとっていろいろ気に入らない個体であった場合には、「実質的には0台」ということにもなる。
 

アルファロメオ 156▲回転計のレッドゾーンを目指して、高らかな美声を張り上げながら回っていくこのエンジンを堪能できる機会は、今後かなり限定されていくのだろうか?

もちろん、中古車というのは「……ほぼ絶滅しちゃったかな?」なんて思っていると、忘れた頃になぜか突然流通量が増えたりすることもある。それゆえアルファロメオ 156のV6MT車に関しても、今後唐突に流通量が増える可能性がないわけではない。

だが、そうなるかどうかは「神のみぞ知る」である。

つまり、貴殿が無神論者であろうとそうでなかろうと、V6 DOHCエンジンを搭載したアルファロメオ 156のMT車については、「急ぐ」か「絶滅リスクを承知で様子見する」かの二択にしかなり得ないのだ。

どちらをお選びになるのもご自由だ。だが、「あのV6の、あの音とフィーリング」を噛みしめることのないままドライバー人生を終えることだけは避けていただきたいと、切に願っている筆者ではある。
 

文/伊達軍曹、写真/大子香山、アルファロメオ

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アルファロメオ アルファ156(初代)×全国
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。