西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 レンジローバー 50周年記念特別仕様車の巻
2021/07/17
乗っているうちに、どんどん欲しくなる“熟成モデル”
SUVにさほど興味のなかった筆者でも、気になるモデルはあった。中でも昔から「こういうSUVを乗りこなせる男になりたい」と思っていたのが、レンジローバーだ。押しも押されもせぬSUV界の雄。初めてレンジローバーの悪路走破性を目の当たりにしたときには、なるほどこれが砂漠のロールス・ロイスと呼ばれるゆえんかと、大いに納得したものだった。何てったって、四輪があり得ないくらい別の方向に向きながら、がれき道を進んでいたのだから!
そんなレンジローバーも、現行モデルで4代目を数える。初代のクラシックなスタイルには、今なお惹かれるものがあるし、人気のなかった2代目もその出しゃばらない雰囲気がいい。3代目になって急に偉そうな感じになったけれど、13年デビューの現行モデルからは、再び上品さを取り戻した。巨体ゆえの威圧感は多少あるけれど。
アルミモノコックボディの採用で、3代目に比べて数百kgものダイエットに成功したことが大いに話題となった現行(L405型)もデビューからすでに8年が経ち、いつフルモデルチェンジしてもおかしくないタイミングになっている。実際、その噂は絶えないし、コロナの影響もあって延びている気配もあるが、近々に新型が登場することは間違いない。
でも、最近のモデルチェンジ事情から想像するに、これだけライバルがいろいろ増えてしまったらもっと豪華に、もっと見栄えよく、もっとスイッチがなくなって、もっと高価になるほかない。レンジローバーの性能は欲しいけれど、見た目までロールス・ロイスに近づいてもらう必要なんてないと思う自分には、きっとトゥーマッチなモデルになる。だったら、熟成極まった現行モデルで、“効く薬になるかどうか”処方してみるほかない。ということで、50周年限定車のフィフティ(Fifty)に乗ってみた。
さすがは2000万円オーバーの世界限定車(1970台)である。22インチという「せっかくSUVを買うのに、どうしてそんなに薄いタイヤを選ばないといけないの?」と思ってしまうほどの大径タイヤを履きながら、V8スーパーチャージャーというもはや犯罪的にパワフルな心臓部と相まったその乗り味は、予想どおり。街中から高速、何ならワインディングロードでも2.6トンの巨体を何の不満もなく走らせることができた。
中でも、街中をゆったりと流しているような場面で、ドライバーを泰然とした気分にさせ続けてくれるという点では、世界中でロールスロイス カリナンに次ぐSUVといえる。見下ろす感覚から、スムーズな動き、ラグジュアリーなオーラまで、まさに“金持ちけんかせず”である。
フィフティロゴの入ったパーフォレーテッドレザーのインテリアも気に入った。こういう質感のレザー内装を知ると、いかに安い車のレザーが“レザー”という名前の別物であるかが分かる。インテリア仕上げのセンスでは、いまだトップブランドだと言っていい。
乗っているうちに、どんどん欲しくなってきた。否、もうSUV嫌いの看板を下ろしてもいいような気にもなった。けれども、ふと現実に気づく。この車はスーパーカーのような値段なのだ。レンジローバーに2000万円出すなら、もうちょっと頑張ってポルシェ 911 GT3が欲しいと思ってしまう。
問題はエンジンだ。さすがにV8はイマドキじゃない。かと言って4気筒のプラグインハイブリッドで乗る気持ちにはなれない。間をとって6気筒と思ったけれど、V6ディーゼルじゃ今更だ。
その後、ディフェンダー110の直6ディーゼルに試乗して、今、SUVを積極的に買うならこのエンジンに限る! と思うに至った。
残念ながら、このエンジンを積んだレンジローバーはない。けれども、弟分のレンジローバー スポーツなら直6ディーゼルのマイルドハイブリッドが存在する。現行モデルでは、レンジローバーもスポーツも中身はそう大差ない。はっきり言ってレンジローバー スポーツはお買い得。だったら、スポーツの直6ディーゼルが良いじゃないか!? 近々、こちらにも乗ってみようと思う。もしくは、ディフェンダー90のディーゼルなら欲しいんだけどなぁ。輸入元様、どうか入れてくれませんでしょうか?
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。