フェラーリ 360モデナ ▲世の車好きの本能みたいな部分を刺激してやまない「V8ミッドシップフェラーリ」ですが、市場にはかなり高いものから「……意外と手が届くかも?」と思うものまで、同じ車種でも様々な価格の中古車が存在します。それらの中から、結論としてはいくらぐらいの個体を選べばいいのでしょうか? いろいろと検討してみます!

「相場の下限」を示す情報には意味がない?

3月27日発売の雑誌「カーセンサーEDGE 5月号」では、「フェラーリの血統。」と題したフェラーリ大特集を展開している。

ここでは、同特集内に掲載された「フェラーリの中古車相場事情」をweb用に加筆再編集した特別バージョンをお届けしながら、「V8ミッドシップフェラーリ」の中古車事情について考えてみたい。
 

フェラーリ 458イタリア▲ドライバーの背後から聴こえてくる甲高く官能的なエンジン音のとりこになってしまう人が多い、V型8気筒エンジンを車体中央に搭載するフェラーリの各モデル。写真は、2009年から2015年まで販売された458イタリア

完全な収束はいまだ遠いCOVID-19の影響で、市場経済はいささか混乱している。だが、いわゆる巣ごもり需要や非接触型ライフとの親和性が高い自動車全般のセールスはおおむね好調で、特にフェラーリなどのスーパーカーは、どういうわけだか絶好調である。

そんなフェラーリの中でも売れ筋モデル――といっても、その数はたかが知れているが――に該当する360モデナとF430、458イタリア、そして488GTBの相場は上から下まで比較的大きく変動しているわけだが、フェラーリの場合は「で、今月は相場の下限がいくらになったのか?」という情報に、実はあまり意味はない。

なぜならば、相場下限近くのフェラーリを買ったところで――基本的には――ろくなことなどないからだ。

一般的な車、例えばトヨタ ヴィッツの中古車などであれば、相場の下限近くの物件を買い、仮に何らかのトラブル(故障)が発生したとしても、事実上は大した問題にはならない。

なぜならば、多少の不具合を抱えながらだましだまし使うこともできなくはなく、修理するにしても、その部品代も工賃も、はっきり言ってしまえばたかが知れているからだ。

だがフェラーリの場合は、なかなかそうもいかない。
 

フェラーリ 458イタリア▲かなり精密な機械製品(というか工芸品?)であるフェラーリだけに、「不具合を抱えながらもだましだまし乗る」という一般的な車種ではできなくもない方策は、実行できないと思っていた方がいい

重要なのは「まともに乗れる個体の相場下限」

例えば、今回下記で詳述する車種とは違うが、大人気モデルであるフェラーリ F355の中古車は、その気になれば800万円程度で探すこともできる。

しかし、そういった価格のF355は――もちろん「絶対」ではないが――走らせればどこかに不調箇所が続発し、それを直すには部品代も工賃も大変に高額で、それらが嫌になって売却しようと思っても、良質車とは違っておおむね二束三文でしか売れないため、「さて困った、どうしよう……」という事態になってしまうことも大いに考えられるのだ。

つまり、フェラーリの相場情報において重要なのは「全体の下限」ではなく、「まともに乗れるだろう個体の相場の下限」なのである。

その意味で言うと、先ほど文中に出てきたフェラーリ F355のそれは、近ごろは「ASK」表示ばかりで今ひとつわかりにくいわけだが、筆者が複数の専門店筋にヒアリングしたところによれば「総額でおおむね1700万円」というのが、直近における数字であるようだ。

そして下記では、現在の売れ筋V8ミッドシップフェラーリ4モデルについての「真の相場下限」を提示した。

もちろん、筆者が提示した数字が絶対に正しいと言い張るつもりはなく、数々の例外は間違いなく存在しているだろう。

だがそれでも、購入にあたって「ある程度の参考」にはなるとは確信しているのだ。
 

フェラーリ 458イタリア▲なんといってもウルトラ高い買い物であるだけに、どうせなら「ちゃんとしたやつ」を探したい。写真は458イタリア

4モデルの「真の相場下限」を考えてみた

ということで以下、代表的なV8ミッドシップフェラーリの概要と、それぞれの中古車相場を記す。

●フェラーリ 360モデナ
注目相場:900万~1300万円

フェラーリ 360モデナ▲こちらが360モデナ。前身であるF355以上にパワフルなV8エンジンを搭載したが、デザインのテイストが大きく変わったことで、F355ほどの人気を得るには至らなかった。その分だけ中古車相場は比較的お手ごろ

1999年から2005年にかけて販売された、V8ミッドシップフェラーリとしては4代前のモデル。

それまでのV8フェラーリの「可憐な」とも評せるデザインとはずいぶん異なる、やや特徴的なフォルムおよびディテールになったせいか、市場での人気は率直に言っていまひとつ。

それもあって直近の相場下限は約670万円と、V8ミッドシップフェラーリとしては異例なまでに低い。

しかし、「ある程度安心して2年間は所有できる」という観点で考えるなら、F1マチックの場合で車両約900万円、MTの場合で約1000万円は見ておきたい。

ちなみにF1マチックが逝ってしまうと、その修理代には約60万円が余裕でかかる。

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フェラーリ 360モデナ×全国

●フェラーリ F430
注目相場:1400万~1700万円

フェラーリ F430▲こちらがF430。エンジンを駆動させるベルトがゴム製の「タイミングベルト」から金属製の「タイミングチェーン」に変わったことで、納車前整備や購入後の整備は比較的容易になった

360モデナの後継モデルとして、2004年から2009年まで製造販売されたV8ミッドシップフェラーリ。

「クラシカルでもなく最新でもない」といういささか中途半端な立ち位置ではあるが、エンジンがチェーン駆動に変わったことによる整備性の向上、そして相場が(V8ミッドシップフェラーリとしては)比較的手ごろであるということで、それなりの人気は博している。

全体の相場は約1100万~約1700万円といったところで、庶民でも長期ローンで手が届きそうな底値圏の物件、つまり「1000万円ちょいぐらい」の個体に目が行くのもわからないではない。

だがここは、ひとつ冷静に「車両価格で約1400万円」をひとつの目安として強く提案したい。

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フェラーリ F430×全国

●フェラーリ 458イタリア
注目相場:2200万~3000万円

フェラーリ 458イタリア▲エンジンの最高出力は578psとなり、様々な電子制御も搭載することで、この世のものとは思えないほど(?)俊敏な動きをするようになった世代である458イタリア

F430に代わって2009年、今から2世代前にあたるV8ミッドシップフェラーリとして登場したモデル。

ショックアブソーバーに「マグネティックライド(磁性流体)」を導入し、F1からフィードバックされた「E-Diff」と「F1-Trac」を同一のECUで統合制御するなど、それまでのV8フェラーリとは明らかに一線を画す「宇宙戦艦」的な1台となった。

モデル全体としての相場は約1700万~約3000万円といったところで、「458イタリアもついに1000万円台に突入したか……」との感慨にふけりたくなる。

だが、実際のオススメは「おおむね2200万円付近から」いうことになる。

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フェラーリ 458イタリア×全国

●フェラーリ 488GTB
注目相場:2600万~3800万円

フェラーリ 488 GTB▲伝統的に「自然吸気エンジン」を搭載してきたV8ミッドシップフェラーリだが、この488GTBでついにターボチャージャーを搭載。デザインもそれまでのピニンファリーナではなく、フェラーリの社内デザインチームが担当した

458イタリアの後を受けて2015年に登場し、2019年まで販売された1世代前のV8ミッドシップフェラーリ。

V8エンジンはついに3.9Lのターボチャージャー付きとなり、670psの最高出力を発生。ちなみに、様々な技術を駆使することで「ターボラグ・ゼロ」を実現したと、フェラーリは言う。

モデル全体の直近の相場は約2400万~約3800万円で、流通台数は今回紹介する4モデルの中ではもっとも豊富だ。

中古車としてはまだまだぜんぜん新しい世代であるため、底値圏の個体でもそう大きな問題はない場合が多い。しかし、「2600万円以上」を目安とすれば、安心感はさらに高まるだろう。
 

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フェラーリ 488GTB×全国
文/伊達軍曹、写真/フェラーリ
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。