マツダ RX-8▲駆け出しモータージャーナリストの瀬イオナが、師匠である中谷明彦さんから当時のことを教えてもらいつつ、懐かしの車に試乗する企画! 今回は、ロータリーエンジンを積んだ、マツダ RX-8

過去の名車にZ世代のモータージャーナリストが試乗!

「昔の車のことをもっと知りたい!」

そんな一言から始まった本企画は、駆け出しモータージャーナリストの瀬イオナが、師匠と仰ぐ中谷明彦さんから、車のことはもちろん、デビュー当時のエピソードなどを振り返りながら教えてもらおうという企画!

その名も「カーセンサー中谷塾」

懐かしい車たちの魅力を掘り下げ、その輝かしい歴史を後世に引き継がせてもらおう。

第4回となる今回は、ロータリーエンジンを搭載するマツダ RX-8だ。

瀬イオナ

自動車ジャーナリスト

瀬イオナ

車メディアの雑誌編集部員を経て、2024年にフリーランスとして独立。「走って書ける」自動車ジャーナリストを目指して修行しながら、若手ジャーナリストとして活動している。車業界に入ったきっかけは、某動画で中谷明彦師匠を見つけたこと。現在に至るまで「ドライビング」はもちろん「ジャーナリスト」の心得など業界におけるすべてを教わりながら日々鍛錬中である。趣味はドライブ、レーシングカート、サウナ。

中谷明彦

レーサー/モータージャーナリスト

中谷明彦

武蔵工業大学工学部機械工学科卒(塑性工学専攻)。大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍中。自動車関連の開発、イベント運営、雑誌企画など様々な分野でのコンサルタントも行っている。高性能車の車両運動性能や電子制御特性の解析を得意としている。1989年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員として就任。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設しF1パイロット・佐藤琢磨らを輩出。

観音開きドアには工夫がいっぱい

マツダ RX-8▲2003年に登場したマツダ RX-8。試乗車は最終型の「スピリットR」
マツダ RX-8
瀬イオナ
瀬イオナ

今回のカーセンサー中谷塾は2003年に登場した「RX-8」をご用意しました! ちなみに講義車は2011年の特別仕様車「スピリットR」です。

中谷さん
中谷さん

4回目にしてロータリー車とは、いい流れだね! RX-8は、RX-7が2003年で生産終了して、ロータリー消滅か!? って雰囲気の中、マツダがどうにかロータリーを続けたいと必死で考えた結果がこれだったんだよね。

瀬イオナ
瀬イオナ

なぜモデルチェンジという形式でRX-7として発売せず、RX-8になったんですか?

中谷さん
中谷さん

RX-7は2ドアスポーツクーペだったんだけど、ロードスターと被ってしまうから競合しちゃうわけ。RX-7はロータリー、ロードスターは普通のレシプロエンジン、と完全に違うけど、買う側であるユーザー目線になったときに、安い方がいいよねってロードスターに流れちゃったりするのを懸念したんだよ。

瀬イオナ
瀬イオナ

ロードスターは爆発的人気を誇った名車ですし、差別化したかったということですね。

中谷さん
中谷さん

ロータリー搭載車が存続していくために何が必要か考えた結果、今までRX-7は事実上2人乗りだったから、新型は4シーターにして4人乗りとしてちゃんと使えるスポーツセダンに近いような形にしたんだ。でも、4シーターでクーペデザインにするのはなかなか難しかった。例えば、1枚ドアにして2ドアで後席へ乗り込むには前席を前に倒してという従来方式にしないと成立しないんだよね。

瀬イオナ
瀬イオナ

なんだかドアがとても長くなってしまいそうですね。

中谷さん
中谷さん

極端だけどそういうこと。すると剛性もなくなってしまう。 前の人が降りないと後ろの人が乗降できないとか利便性でうんぬんあって、そんなときに観音扉で開くドアを考えて登場させたのがRX-8だった。ちょうどマツダがアメリカ・フォード傘下にあって、フォードが4ドアにしないと存続させないと言われて苦心したと当時聞いたことがある。

瀬イオナ
瀬イオナ

見た目は完全なスポーツクーペだけど、よく見ると後ろにもドアがあるのは面白いです!

マツダ RX-8▲観音開きタイプのドアが大きな特徴
中谷さん
中谷さん

最大の特徴である観音開きドアだけど、運転席のドアを開けないと後ろのドアが開かないんだ。 少々問題もあると思ってて、例えば事故があって、運転手が万一ドアを締めて逃げてしまうと、後席乗員は閉じ込められちゃう。 だから後ろは後ろで開けられるように、何か仕組みを考えなければいけなかったと思うんだよね。

瀬イオナ
瀬イオナ

前後それぞれが独立して開くタイプのドアではないんですね。

中谷さん
中谷さん

そのドア自体も、アメリカの厳しい衝突試験に適合させるために横方向からの衝突も考えられているんだけど、後ろドアの部分を頑丈に作っていて重かったり、ドアの下部に小さい突起を付けてドアがつぶれたときに中にグシャっと車内に入り込まないように工夫してたり、実はいろんな技術が盛り込まれているすごいドアなんだよ!

瀬イオナ
瀬イオナ

後席に座ってみましたけど、外からの見た目に比べて随分広く感じます!

マツダ RX-8
中谷さん
中谷さん

結構快適でしょ。センターコンソールを用意して、5人乗りにしないで4人乗りに割り切っているんだけど、後席でも快適に過ごせる。この後席の居心地はコックピット感があって、普段使いにも便利になっていたから、個人的にも好きな仕上がりだったよ。

瀬イオナ
瀬イオナ

快適ですけど、速そうな見た目だし、乗ってると結構エンジン音とかするんじゃないですか?

中谷さん
中谷さん

ロータリーエンジンは回転振動が少なくて静かだよ! 縦置きで積んではいるんだけど、実際はノンターボ(NA)だから非力でもあった。発表時はロータリー搭載で皆評価したけど、当時の他のスポーツカーと比べるとやはり絶対的なパワーが足りてないから人気車にはなれなかった。RX-7のロータリーエンジンにターボ付きだと2000年代の燃費排気ガス基準に合わなくなってしまったんだよ。

マツダ RX-8
瀬イオナ
瀬イオナ

ハイパワー競争している時代背景に合わなかったというか、かわいそうなところがあるんですね。

中谷さん
中谷さん

ちなみに、ロータリーはもともとバンケルエンジンといって、ドイツメーカーの特許なんだ。 国内自動車メーカーは、特許取得しても発売に至れなかったりしている中、唯一マツダは生産ラインを完成させて販売までしている。

瀬イオナ
瀬イオナ

へえ、ロータリーエンジンといえばマツダのイメージが強いですが、もともとはドイツ発祥のものなんですね。

中谷さん
中谷さん

僕も一番最初に買った愛車がロータリーエンジンを搭載した1970年製のマツダ ファミリア ロータリークーペで、パワー感もあってジャジャ馬で、速くて楽しかった思い出があるよ。だから、RX-8は静かだけどそこまで速くないから、登場した当時は驚いた。でも今乗ると、安心安全で快適なロータリークーペって感じで、サラッと乗れていいね。

久しぶりのエンスト……理由は?

マツダ RX-8▲初めてロータリーエンジン車を運転します!
中谷さん
中谷さん

よし! じゃあ実際に乗ってみようか。

瀬イオナ
瀬イオナ

よし! サラッと素敵に乗りこなして見せます! ……あれ、エンストしちゃった(汗)。

中谷さん
中谷さん

全然スマートじゃないよイオナ君。ロータリーエンジンは低回転域のトルクがあまりないから、少し回転数を上げてクラッチをつながないといけないよ。これはロータリーエンジンの特性だから覚えておこうね。

瀬イオナ
瀬イオナ

初めてのロータリーなのでお許しを~(泣)。ん? ということは燃費あまり良くないとか?

中谷さん
中谷さん

そのとおり! 燃費はカタログデータ値でも10km/Lいかないくらいだったと思うから、実際に走ったら1桁だよ。ロータリーエンジンは燃費の悪さがネックでレシプロには敵わない。RX-8はロータリー初期より進化したレネシスという改良型が搭載されたとはいえ、厳しいものがあったね。

マツダ RX-8
瀬イオナ
瀬イオナ

しばらく運転してますが、結構エンジン音は静かなんですね! ロータリー特有のモーターっぽいヒューンという音も面白いです。

中谷さん
中谷さん

ロータリーって実はすごくうるさいんだよ。ル・マン24時間レースに参加したときなんだけど、レーシングカーは速さのために少しでも軽くするからマフラーとか付いてないんだけど、ライバル車だったロータリー搭載マシンは、暖気中も走ってるときも、とにかくうるさい。スリップにつこうものなら耳がおかしくなるくらいだった。耐久性が高くてリタイアもしないから、夜中もやかましくて寝られない。もちろん日本メーカーだから応援したい気持ちはあったけど、たまにはピットで止まっていてくれないかな、とか思っていたね(笑)。

瀬イオナ
瀬イオナ

そんな爆音がマフラーのおかげで消せてしまうんですね!?

中谷さん
中谷さん

ロータリーエンジン車は爆音でも比較的小さなマフラーで音を消すことができるんだ。通常、マフラーの容量はエンジンの排気量に対して3倍の容積と決まっている。例えば、3Lエンジンだったら、9000ccの容量がないと十分に排気音を下げられないんだ。 でもRX-8に関しては、654cc×2ローターだから、3000ccくらいのマフラー容量でも音が静かになる。振動はもともと少ないしね。

マツダ RX-8
瀬イオナ
瀬イオナ

速そうな見た目だし、ロータリーエンジン搭載、マニュアル、FRとガチガチのスポーツカーを想像していたので運転前は結構身構えてましたが、実際に運転してみると、最初に中谷さんがおっしゃっていたように、4人乗りのちゃんと街中で使えるセダンのような乗り味でロータリー車を楽しめるんだということがわかりました。

中谷さん
中谷さん

ハードル高くないから気軽にロータリーを楽しめていいでしょ。カーセンサーを見ると、そこまで価格が高いわけでもなさそうだし。

瀬イオナ
瀬イオナ

大人な余裕あるドライブ気分を味わうことができました! 今回もありがとうございました!

マツダ RX-8

【イオナの感想】マツダ RX-8

人生で初めてロータリーエンジンを体験しました。アクセルを踏んだときや減速時に聞こえる“ヒュルヒュル”という、モーターのような独特の音がクセになります。

発進時、いつもの愛車・三菱 パジェロミニの感覚で2000回転いかないくらいで半クラをつなごうとしたところ、あっさりエンストしてしまい……これがロータリーエンジンの洗礼かと実感。少し高めの回転数でつないであげる感覚が、まるで車と対話しているようで、試乗中はどんどん愛着が湧いていきました。

そんなRX-8の今回の推しポイントは、「後席」を選びたいと思います。前席ドアを開けないとリアドアが開かないという独特な構造にはやや不安を覚えるものの、観音開きのドアから乗り込む後席は非日常感たっぷり。外観からは想像できないほどの居住性には驚かされました。ちなみに、後席の真ん中部分は取り外して使うことも可能で、ラゲージにスキー板などの長尺物を乗せるときに重宝します。

マツダ RX-8

外観のデザインは、まさに“THEスポーツカー”。現代のマツダの鼓動デザインを生み出した前田育男さんが手がけただけあって、張り出したバンパーを強調するサイドビューがかっこよさを引き立て、乗り込むたびに気分を高めてくれます。決して1番2番の速さを競うような車ではないですが、サーキットでも映える存在感は抜群です。

ロータリーのフィーリングを、ゆったりと大人のドライブで楽しむ時間は、日常の喧騒を忘れさせてくれるひとときになること間違いなしです。

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マツダ RX-8(初代)×全国
文・まとめ/瀬イオナ、写真/阿部昌也