新型ホンダ ビートがまさかの“二輪車”で絶望した人に贈る「代わりにコレどうですか?」5選
2024/08/12
発売されたビートは四輪車ではなく、まさかの「二輪車」だった!
「希代の名車」と評してもまったく大げさではない、初代ホンダ ビート。ご存じのとおり世界初のミッドシップ・フルオープン・モノコックボディ軽自動車であり、ホンダのF1テクノロジーを応用したハイレスポンス・エンジンコントロールシステムなども採用した、筆舌に尽くしがたいほど素晴らしい1台であった。
「そんなビートの新型が発表された!」との噂を聞き、歓び勇んでニュースサイトを見てみたところ――発表されたのは、ビートはビートでも「スクーターのホンダ ビート」でった。……いや、そもそも「ビート」という名前はホンダの二輪車に使われていたものであるため、文句を言いたいわけではない。「元に戻った」というだけの話だ。
しかし、期待していただけにショックはデカく、そして今後、ホンダから軽オープンスポーツが登場する可能性は(たぶん)皆無であることを考えると、さらに落ち込んでしまった次第である。
だが、落ち込んでばかりいても仕方ない。こうなったらもう初代ビートの中古車を含め、「幻の新型四輪ビート」の代わりになり得るモデルを、真剣に探してみることとしたい。
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ホンダ ビート(初代) × 全国新型ビート(?)の代わり・その1|初代ホンダ ビート
順当なところでは「初代ホンダ ビートの中古車」こそが、幻の新型四輪ビートの代わりとしてまずは最適であろう。ご承知のとおり初代ホンダ ビートは1991年から1996年まで販売された、専用設計のミドシップレイアウトを採用した軽ピュアスポーツだ。
搭載エンジンは直列3気筒自然吸気のE07A型で、自然吸気の軽自動車用エンジンとしては唯一、自主規制値であった64psをマークしたユニット。しかも、その最高出力は8100rpmというきわめて高い回転域で発生した。
トランスミッションは5MTのみ。数を売ろうと考えたなら「AT仕様」の追加は必須だったかもしれないが、当時のホンダはあえてそこに背を向け、ビートという車に「本格スポーツ」の道を歩ませたのだ。
さらにビートのエンジンには、当時のホンダのF1テクノロジーも注入された。
世界初のミドシップ・フルオープン・モノコックボディの軽自動車として、ターボチャージャーなどの過給器に頼ることなく、ナチュラルで鋭いレスポンスを実現させたい。そして、コンパクトスポーツとしての魅力を損なわないよう、エンジンのサイズ自体を小型かつ軽量なものとしたい――といった課題を解決するために選択されたのは、ホンダのF1テクノロジーを応用したハイレスポンス・エンジンコントロールシステム「MTREC(Multi Throttle Responsive Engine Control system)」を、軽自動車のエンジンに組み込むという大胆な策だった。
この他にもマニアックな技術がふんだんに投入されたことで、ホンダ ビートの「伝説の超高回転型自然吸気エンジン」は完成した。その走りは、完調な状態でさえあればいまだ超一級品だ。
2024年8月上旬現在、初代ビートの中古車は約140台が流通中で、平均価格は96.2万円。とはいえ格安なモノを買っても、結局は「ちゃんと走れるようにするまでの整備代」で車両価格以上のお金がかかってしまうだろう世代ではある。
そのため一概には言えないのだが、総額150万円以上をひとつの目安に、信頼できる専門店にて購入するべきだろう。
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ホンダ ビート(初代) × 全国新型ビート(?)の代わり・その2|初代マツダ AZ-1
幻の新型四輪ビートの代わりになり得る1台としては、マツダ AZ-1もアリなはずだ。
1992年10月にマツダのオートザム系列で発売されたAZ-1は、「ミッドシップ2シーター」という軽自動車にあるまじきレイアウト(?)を採用した軽スポーツ。ボディ外板には鉄ではなく、成形自由度の高いFRP(繊維強化プラスチック)が使用された。
2枚のドアは伝説の名車「メルセデス・ベンツ 300SLロードスター」などと同じ正統派のガルウイング。後輪車軸よりやや前に搭載されたエンジンは、スズキのアルトワークスから流用したF6A型直列3気筒DOHCインタークーラーターボ。最高出力は自主規制値いっぱいの64psだった。
そしてそのコーナリング特性は、44:56という前後重量配分と、720kgというきわめて軽量な車重、そしてロック・トゥ・ロック2.2回転という超クイックなステアリング機構などの結果「鬼のようにシャープ」と言えるものに仕上がり、一部の愛好家はその虜となった。
そう。いわゆる色物扱いされることも多かったマツダ AZ-1ではあるが、その内実は「大いにマジな軽スポーツ」だったのだ。
とはいえ一般的にはまったく売れず、1995年6月には早くも生産終了となり、同年12月には販売も終了。だが、好事家たちは今なおAZ-1という、ある種の名車を愛し続けている。
そのため中古車市場にはなかなか物件が出てこないのだが、2024年8月上旬現在、一応14台のAZ-1が総額210万~310万円ほどのゾーンで流通中。安くはないが、「幻の新型四輪ビート」も、もしも発売されていたらそのぐらいの価格になるはず。それゆえ、決して高すぎるということもないはず。むしろ「ある種のスーパーカー」としては安いのかもしれない。
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マツダ AZ-1(初代) × 全国新型ビート(?)の代わり・その3|初代スズキ カプチーノ
初代ホンダ ビートがアリで、マツダ AZ-1もアリであるならば、「平成ABCトリオ」を成した一角である「スズキ カプチーノ」だってアリだろう。
1991年から1998年まで販売されたスズキ カプチーノは、軽自動車規格でありながら本格的なスポーツカーとほぼ同等のスペックを備えていた名作2シーターオープン。搭載エンジンはアルトワークス用657cc直3 DOHCインタークーラー付きターボエンジンで、トランスミッションは専用セッティングの5MT。そして車両重量は、ほぼ同時期に販売されていたホンダ ビートの760kgを下回る「700kg」という驚異の車両重量を実現していた。
カプチーノは足回りも本格的で、軽自動車でありながらサスペンションは前後ともダブルウィッシュボーン式であり、ブレーキも四輪ディスク。部品点数がどうしたって多くなる本格的な機構を採用しながら、ライバルより圧倒的に軽い車重を実現していた点に、当時のスズキの技術者の「本気っぷり」が見て取れる。
1995年5月にはマイナーチェンジが実施され、エンジンがオールアルミ化されると同時に、当時最新だった16ビットのコンピュータ制御も採用。ちなみにエンジンがオールアルミ製になったことで、ただでさえ超軽量だったカプチーノの車重は「690kg」となり、その軽量っぷりにはさらなる磨きがかかった。
そんなスズキ カプチーノの中古車は現在、約100台が総額50万~300万円あたりのレンジで流通しており、平均価格は111.4万円。これまた価格だけで一概に言うことはできないのだが、総額150万円以上をひとつの目安にすれば、なかなか良き物件が見つかるはずだ。
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スズキ カプチーノ(初代) × 全国新型ビート(?)の代わり・その4|初代スマート ロードスター
幻の新型四輪ビートの代わりとしては、平成ABCトリオこと「AZ-1」と「BEAT」「Cappuccino」も十分に役目を果たせるはずだが、もう1台忘れてはならない類似車が「スマート ロードスター」だ。
スマート ロードスターは、日本では2003年9月に発売となった2座式の超小型ロードスター。軽自動車サイズにも見えるが(実際、その全長は軽自動車規格とほぼ同じだ)、横幅はさすがに軽自動車より13cm以上広い。パワーユニットは排気量0.7リッターの直列3気筒ターボ(最高出力82ps)である。
もともとは腕時計でお馴染みのスウォッチ社が「2人乗りのマイクロカーを作りたい」と思いたち、1994年にダイムラー・ベンツ(当時)と合弁会社を設立。そして2人乗りの「スマート フォーツー クーペ」や4人乗りの「スマート フォーフォー」などを世に出した。その後は紆余曲折があってスウォッチはこのプロジェクトから離脱したわけだが、そういったスマート計画の初期段階である2002年に誕生したのが、スマートロードスターだ。
その乗り味はゴーカートに近い。3気筒ターボエンジンの最高出力は前述のとおり82psにすぎないが、なにせ車重830kgと軽量で、ドライバーの着座位置が地面にきわめて近いため、体感速度はきわめて速い。
そして、エンジンを車の前方ではなく後部に搭載し、後輪を駆動させるレイアウトを採用しているせいだろうか、その回頭フィールはリアルスポーツカーのそれに近い。山坂道の上りにおいてはさすがにエンジンパワーの差が出てしまうが、下りコーナーであれば、ドライバー次第では高額スポーツカーよりも速く曲がれることだろう。
そのようにステキな乗り物であるスマート ロードスターだが、ここ数年は「絶滅危機」ともいえる状況に瀕しており、2024年8月上旬現在の流通量はわずか12台。中古車価格は総額80万~220万円といったところで、総額120万~150万円付近のゾーンに要注目物件が集中している。
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スマート ロードスター(初代) × 全国新型ビート(?)の代わり・その5|ローバー ミニ
ここまでご紹介した4車種は、いずれも素晴らしい超コンパクトオープンスポーツであることは間違いない。しかし筆者は「ホンダ ビートと同様のオープンスポーツである」という表層部分に、いささか引っ張られすぎたのかもしれない。
ホンダ ビートの本質的な魅力とは、小さなボディ全体が、まるで自分の身体そのものであるかのように感じられ、それをほぼ意のままに動かすことができる――という部分にあるはずだ。
そうであるならば、ボディタイプは必ずしもオープンカーである必要はなく、クローズドボディの車であっても「ビートの代わり」になり得るはずである。
そう考えたときに候補となるのは、初代ビートと同じように「小さなボディ全体が、まるで自分の身体そのものであるかのように感じられ、それをほぼ意のままに動かすことができる」車である、英国の元祖ミニ(のちのローバー ミニ)であるだろう。
ご承知のとおり革命的な前輪駆動の超小型車として1959年に誕生した元祖ミニは、そもそもは「実用的に使われること」を想定して開発された実用小型車であった。しかしその走りっぷりがあまりにもダイレクトで気持ち良く、まさに「小さなボディ全体が、まるで自分の身体そのものであるかのように感じられる」というものであったため、いつしか「ある種のスポーツカー」的に愛好されることになった。
搭載されるエンジンは最終世代のものでも最高出力62psの1.3L直4OHVでしかないため、当然ながら「絶対的な速度」は大したことがない。だがその若々しい筋肉が全身に張り巡らされているかのような運転フィールは絶妙というか唯一無二というか、とにかく最高であり、一度味わうと――初代ビートと同様に――クセになってしまうタイプの快感に満ちている。
そんな元祖ミニは、以前は総額100万円も出せばかなり具合の良い中古車が買えたものだが、昨今は折からの世界的なネオクラシックブームの影響で相場は高騰し、しっかりと整備された履歴明瞭な1台の価格は総額200万円を軽く超えることが多い。
とはいえ初代ホンダ ビートの良質物件を買う場合の価格もおおむねそのぐらいであり、「幻の新型四輪ビート」が発売されていたとしたら、その新車価格は200万円では済まなかったはず、そう考えると、昨今の元祖ミニの価格も「決して高すぎはしない」と思うのだが、いかがだろうか?
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ローバー ミニ(初代) × 全国自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。