トヨタ MIRAI ▲水素と酸素の化学反応で得られる電気エネルギーでモーターを駆動させる燃料電池車、現行型トヨタ MIRAIの中古車平均価格が今、比較的大きく下がっています。その存在が気になっている人も多いと思いますが、同時に気になるのは「燃料電池車って、自分が買っても大丈夫なのだろうか?」ということかもしれません。現行型MIRAIとは果たしてどんな人に向いている車なのか、考えてみることにしましょう!

中古車平均価格は前年同月より120万円近くダウン

2020年12月に発売された現行型トヨタ MIRAI。言わずと知れたトヨタの燃料電池車であり、2代目となった現行型はより高級感を増し、スタイリッシュなセダンへと生まれ変わりました。また数々の先進機能が採用されている点も、現行型MIRAIの魅力といえるでしょう。

そんな2代目トヨタ MIRAIの中古車平均価格が今、大きくダウンしています。
 

MIRAIの平均価格推移グラフ
 

2022年中は「微下落」ぐらいの価格推移だったのですが、2023年初頭からダウントレンドに転換。その結果、2024年6月の平均価格は前年同月と比べて117.6万円も安い「345.8万円」に。そして月間あたりの延べ掲載台数も100台を超えてきたということで、かなり選びやすい状況になってきたといえます。

そうなると「MIRAI、欲しいかも!」と思う人は多そうですが、同時に「でも燃料電池車って、実際のところどうなんだろう?」という不安あるいは疑問も、頭をよぎるかもしれません。

そこでこの記事では現行型トヨタ MIRAIのモデル概要を振り返るとともに、「現行型MIRAIの中古車は、どんな人にならオススメできそうなのか?」ということをじっくり検討してみたいと思います。
 

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モデル概要:プレミアムセダンとしての魅力が向上し、航続距離も延びた燃料電池車

トヨタ初の量産型FCV(燃料電池車)として2014年12月に発売された初代MIRAI。その登場から6年を経た2020年12月に登場したFCVセダンが、現行型となる2代目トヨタ MIRAIです。

初代MIRAIは「環境車」というイメージが強いモデルでしたが、2代目はその印象を払拭し、プレミアムセダン本来の魅力(思わず振り返りたくなるスタイリングと、思わずアクセルペダルを踏みたくなる新感覚の走り)を追求したモデルとして誕生しました。

基本骨格は現行型レクサス LSにも採用されている最新のGA-Lプラットフォームで、ワイド&ローな伸びやかなプロポーションをもつボディのサイズは全長4975mm×全幅1885mm×全高1470mm。

駆動方式は初代の前輪駆動から後輪駆動へと改められ、主要コンポーネントの最適配置による低重心化と、50:50の理想的な前後重量バランスとのコンビネーションによりエモーショナルな走りを実現。サスペンション形式は前後ともマルチリンク式です。
 

トヨタ MIRAI▲こちらが現行型(2代目)トヨタ MIRAI
トヨタ MIRAI▲「4ドアクーペ」とも呼べそうな流麗なフォルムを採用。一見するとハッチバックにも見えるが、独立した荷室を3ボックススタイルの4ドアセダンだ

キャビン後方に搭載される駆動用モーターの最高出力は182ps/最大トルク300N・mで、水素タンクは先代より1本多い3本を搭載。これにより水素の総搭載量は4.6kgから5.6kgへと20%以上増加しました。そして約10%の燃費性能向上と併せ、カタログ上の航続距離は初代の約650km(JC08モード)から約850km(WLTCモード)へと大幅に伸長しています。

運転支援システムは、交差点における右左折時の歩行者検知や、ドライバーの体調急変による運転障害のリカバリー、アダプティブクルーズコントロール利用時のコーナリング中の速度抑制機能など、最新の機能を盛り込んだ「Toyota Safety Sense」を全車標準搭載。そして車内2ヵ所に1500Wのアクサセリーコンセントを備えており、別売りの外部給電器を使えば大容量給電も可能です。

登場翌年の2021年4月には、高速道路や自動車専用道路の本線上で運転をサポートする「自動運転レベル2」相当の高度運転支援機能「Advanced Drive(アドバンストドライブ)」搭載のグレードを追加し、2022年12月と2023年12月にも一部仕様変更を実施。

そして現在も新車は726.1万~861万円の車両本体価格にて販売中で、中古車も上級グレードであるZ系を中心に、総額220万~580万円付近のレンジで比較的多数の物件が流通しています。
 

トヨタ MIRAI▲12.3インチのセンターディスプレイとメーターパネルを組み合わせることで一体感を表現しているコックピットデザイン。「Z」グレードには、14個のスピーカーを配置する「JBLプレミアムサウンドシステム」を標準装備する
トヨタ MIRAI▲初代MIRAIのリアシートは2人掛けだっが、現行型では3人掛けに。センターのアームレストにはオーディオやエアコンなどの操作スイッチが内蔵されている

以上が2代目トヨタ MIRAIのモデル概要となりますが、結局のところどんな人にオススメできるのでしょうか? 次章以降、考えてみることにしましょう。
 

 

こんな人にオススメ①|総論としては「ほとんどの人」にオススメできる

もちろん「自宅の近くに水素ステーションはあるか?」という根本的な問題はあるのですが、そこを除いて考えるなら、現行型トヨタ MIRAIは、基本的には「プレミアムなセダンを探しているすべての人」にオススメできる1台だといえます。

初代MIRAIもなかなか魅力的なセダンではあったのですが、カタログ値で650kmという航続距離が若干ネックではありました。

「650km」と聞くと十分なようにも感じますが、この数字はWLTCモードによるものではなく、古い基準であるJC08モードによるものでした。また初代の「実際の航続距離」は、筆者の取材によれば、せいぜい450kmぐらいでしかありませんでした。

しかし、現行型MIRAIの航続距離は「WLTCモードで850km」へと大幅に延び、実際の航続距離も、これまた筆者の取材によれば500~550kmぐらいまで延びています。燃料満タン1回分の航続距離が500km以上というのは普通のエンジン車とおおむね同じですので、この数字であれば「各地の水素ステーションが24時間、常に開いているわけではない」という現状の課題も、ほとんど問題にならないでしょう。
 

トヨタ MIRAI▲水素タンクの数は初代の2本から3本に増え、燃費性能自体も向上したことで、2代目MIRAIの航続距離は「普段使いをするうえではほとんど問題なし」といえるレベルに達している

また、航続距離や水素ステーションの営業時間うんぬんはいったんさておき、純粋に「プレミアムな4ドアセダン」としての現行型MIRAIについて考えてみても、それはなかなかステキな1台であるように思えます。

伸びやかなロングノーズに、リアウインドウまで緩やかな弧を描くファストバックスタイルと大径タイヤを組み合わせたスタイリングは大いに魅力的で、インテリアのデザインとタッチ、そして機能性も、欧州のプレミアムDセグメント車に負けていません。

そして走りもなかなかのモノです。もちろん駆動用モーターの出力はせいぜい182ps/300N・mですので「鬼のように速い!」みたいなことはないのですが、しなやかな超フラットライド感と素直な回頭性は「これぞセダンのお手本!」と言いたくなるレベル。そしてモーター駆動ならではのレスポンスの良さも快感です。

つまり現行型トヨタ MIRAIは「航続距離は決して短くない、デザイン性と機能性、そして走行性能とそのフィーリングに優れるセダンである」ということです。だからこそ、先ほど申し上げたとおり「基本的には、プレミアムなセダンを探しているすべての人にオススメできる1台」といえるのです。
 

トヨタ MIRAI▲燃料電池うんぬんの話は抜きに「普通のプレミアムセダン」として見た場合でも、現行型MIRAIのしなやかで素直な走行フィールは称賛に値する
 

こんな人にオススメ②|長距離走行をさほど頻繁には行わない人

基本的にはプレミアムなセダンを探しているすべての人にオススメできる現行型トヨタ MIRAIではありますが、とはいえ「長距離走行を極端に高い頻度で繰り返している人」にはあまり向かないでしょう。

例えば世の中には東京~大阪間の約500kmを毎週、車で往復している人もいるはずです。その500kmの行程を、現行型MIRAIであれば途中での水素充填なしで走り切ることができます。しかし現地への到着時刻が夜の遅い時間帯であった場合、開いているガソリンスタンドはあるでしょうが、水素ステーションは営業時間が終わってしまっていることも考えられます。そうなると、やはりなんだかんだで不便あるいは不安を感じてしまうことになります。

そのため、現行型トヨタ MIRAIは「長距離走行を極端に高い頻度で繰り返している人」にはあまり向かないわけですが、逆にいうと、そこまでの長距離移動を頻繁に繰り返している人というのも、実際にはかなり少ないはず。ほとんどの人は、長距離移動をするといってもせいぜい片道100kmから200kmぐらいでしょうし、それを行う頻度も、さほど高くはないはずです。

ということは、やはり「一部を除いた多くの人に、現行型MIRAIは向いている」という結論になるのです。
 

トヨタ MIRAI▲水素を満タンにした後の実質的な航続距離は550kmほどである場合が多い2代目MIRAI。よほど特殊な事情がない限り「十分な航続距離」と考えていいはず
 

こんな人にオススメ③|セダンに「猛烈な速さ」ではなく「快適な速さ」を求める人

基本的には「一部を除いた多くの人に向いている」といえる現行型トヨタ MIRAIですが、とはいえ「猛烈なパワーユニットを搭載する超スポーティセダン」みたいなモノを求めている人には、あまり向いていません。

世の中には最高出力400ps、いや500psを超えるような超高性能パワーユニットを搭載しているセダンも存在しています。そういったセダンをチョイスすれば、高速道路などではちょっと信じられないぐらいの無敵な加速感を堪能できますが、現行型MIRAIの加速性能は、そこまで凄くはありません。「3L級自然吸気エンジン」を搭載するセダンと、おおむね同じぐらいのニュアンスなのです。

それゆえ、現行型トヨタ MIRAIは「鬼のような加速と爆走を高い頻度で繰り返したい人」にはあまり向かないわけですが、逆にいうと、そんな過激な走りをセダンに求めている人というのも、実際にはかなり少ないはず。

そして鬼のような加速と爆走が可能な超高出力セダンというのは、その代償として足回りが硬い=日本の速度域での乗り心地はよろしくないというのが一般的です。しかし、現行型MIRAIの乗り心地はきわめてしなやかです。それでいて最高出力182ps/最大トルク300N・mの駆動用モーターは普通または普通以上に力強いため、セダンとしては理想的といえる「快適な高速巡航」を楽しむことができるのです。

ということで、結論としては「現行型MIRAIは猛烈な速度を求める一部の人には向かないが、ほとんどの人には向いている」ということになるわけです。
 

トヨタ MIRAI▲「猛烈で過激なドライビング」みたいな走り方に向いているセダンではないが、そもそも今の時代、そんな走りをしたいと思っている人も少ないのでは?
 

こんな人にオススメ④|「最先端」をリーズナブルな予算で手に入れたい人

採用されているテクノロジーにしろ、内外装のデザインにしろ、「とにかく最新で最先端のモノを好む!」という人も、世の中には一定数以上いらっしゃるでしょう。

とはいえ、そういった「最新&最先端のモノ」というのは当然ながら高額である場合がほんどです。そしてもしもセダンに「最新&最先端」を求めるとしたら、おおむね下記ぐらいの予算は必要になります。

●現行型トヨタ クラウンの最新テクノロジー&最新デザインを求めるなら?
→新車だと約800万円、中古車でも総額770万~890万円

●現行型メルセデス・ベンツ Eクラスの最新テクノロジー&最新デザインを求めるなら?
→新車だと1000万円以上、中古車でも総額920万~1080万円

●先代メルセデス・ベンツ Eクラス後期型のテクノロジー&デザインを求めるなら?
→中古車価格は総額500万~900万円

ざっくり言うと「安い場合でも500万円以上、高めの場合は800万円以上」の予算が、ある程度以上の車格の最新系セダンを入手するためには必要なのです。

しかし現行型トヨタ MIRAIという、最新の燃料電池ユニットと最新の運転支援システム、そして最新のトレンドにのっとった内外装デザインを採用しているセダンであれば、「総額300万円台後半」ぐらいの予算にて、それを手に入れることができるのです。

具体的には総額370万円前後で、上級グレードである「Z エグゼクティブパッケージ」の走行2万~3万km台ぐらいの物件が普通に見つかるでしょう。

水素や燃料電池うんぬん以上に、この「コスパの良さ」こそが、現行型トヨタ MIRAIというセダンの最大の魅力なのかもしれません。
 

トヨタ MIRAI▲FCVというジャンルが今のところ若干人気薄ゆえに、中古車価格は相対的にリーズナブル。この存在感が「実は総額300万円台後半でも入手可能」というのは、ある種の人にはうれしい話であるはず

もちろん「ウチの近所には水素ステーションがまったくない」というエリアにお住まいの人には明らかに向かない車です。しかしそうでない場所にお住まいの人にとっては、現行型トヨタ MIRAIは汎用性とコストパフォーマンスが高く、しなやかな乗り味も楽しめる「普通のプレミアムセダン」です。

居住地次第ではありますが、ご興味があればぜひ一度、真剣にチェックしてみてください。
 

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文/伊達軍曹 写真/トヨタ、尾形和美
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツR EX Black Interior Selection。