Honda e(初代)▲ホンダ初の量産電気自動車のHonda eが生産終了。登場からわずか3年ほどだった

Honda eが今年1月で生産を終えることを発表

2023年末に流れた「Honda eが2024年1月で生産終了」という衝撃のニュース(※ホンダ公式HP参照)。ホンダ初の量産BEV(電気自動車)が、登場からわずか3年ちょっとで姿を消すなんて。

しかし、本当に見向きもされないような車だったのだろうか? この記事では、改めてHonda eの概要をおさらいするとともに、今の中古車状況を見ていこう。
 

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「ちょっと先の未来」を具現化した“コンセプトカー”

Honda e(初代)▲先進運転支援機能「ホンダセンシング」は標準装備。充電口はフロントフードの中央にある。サイドミラーはデジタルカメラ式

2020年10月から販売が始まったHonda e。三菱自動車が世界初の量産BEV「i-MiEV」を販売したのが2009年だし、日産のリーフはもう2017年に2代目に切り替わっていたタイミングだった。確かに量産BEVへの参入は遅かったが、その分ライバルたちにはない魅力を備えてのデビューだった。

「ライバルたちにはない魅力」と書いたが、当時の2代目日産 リーフが1回の満充電で322km(40kWh)/458km(62kWh)走れるのに対し、Honda eはわずか259km/283km(いずれもWLTCモード)と、ライバルよりも短い。

しかも、当時リーフの車両本体価格は332万6400~499万8400円だが、Honda eは451万~495万円。「ライバルより航続距離が短くて、価格は高い」とあっては、“魅力”どころか販売面では大きな“マイナス要素”だ。

それでもHonda eには「ライバルたちにはない魅力」があったと、あえて言おう。そもそも、航続可能距離が短いのはホンダの“狙いどおり”だ。
 

Honda e(初代)▲3LのV6エンジン相当の大トルクを発揮するモーターをリアに搭載する。前後重量配分は50:50とスポーツカーのようだ

Honda eが目指したのは「ちょっと先の未来にピッタリな車」。脱炭素が必須となる未来に理想的なのはBEVだが、とはいっても、大容量電池を搭載すれば車両重量が重くなり、燃費ならぬ“電費”が悪化する。電気だって、今は(特に日本は)主に化石燃料で生み出しているのに、電費が悪かったらも元も子もない。

だから、Honda eは航続可能距離をいたずらに延ばさなくていいサイズに抑えられた。この辺は2022年6月に登場した日産 サクラ(航続可能距離は180km)にも通じる。
 

Honda e(初代)▲コンパクトなサイズに抑えられたボディ

もちろん、今後リチウムイオン電池に代わる新しい電池が開発されれば、小さな容量でも航続可能距離を延ばせるかもしれないが、「ちょっと先の未来」には間に合いそうもない。

さて、小型車だし、航続可能距離が短いのであれば、必然的に街乗りがメインになる。だから狭い道も取り回しがしやすいよう、ハンドルの切れ角が大きくとれるRRレイアウト(リアにエンジンを配置して後輪を駆動させる。Honda eの場合はリアモーター・リアドライブ)が採用された。

RRといえば超高性能スポーツカーのポルシェ 911が思い浮かぶが、このHonda eも走りにもこだわられている。まあ、これはコンセプトというよりモータースポーツ魂があふれるホンダの“さが”というべきか。
 

Honda e(初代)▲かわいらしい見た目やEVで有ることに注目されがちだが、実はとても走りが楽しいモデルでもある

「ちょっと先の未来」に話を戻すと、ふんだんに搭載された “最先端技術”がある。12.3インチのスクリーンを2画面並べた「ワイドスクリーンHonda CONNECT ディスプレー」。速度計をはじめとした車両情報はもちろん、HDMI端子も備わるので大画面でゲーム機が使えるし、映画も見れる。登場時はちょうどコロナ禍ということもあり、車内でテレビ会議もできることがウリのひとつだった。

しかも、クラウドAIを使った音声認識機能「Honda パーソナルアシスタント」も搭載された。「OK、Honda」と呼びかければ(まるで“本田くん”に声をかけるようだけど)スイッチを操作せずに車があれこれとやってくれる。
 

Honda e(初代)▲12.3インチのワイドスクリーンに加え、インパネの左右にサイドカメラビューモニターが備わる。バックミラーも天候に左右されず、物理的なミラーより視界が広いデジタルカメラ式
Honda e(初代)▲運転席側と助手席側でそれぞれが表示を入れ替えられるので、例えば助手席の人がナビの設定をしてあげて、その画面を運転席側に移す、という操作も可能だ

また、ポケットにキーを入れて車に近づけばドアノブが握りやすいようにボディからせり出すし、シートに座ってドアを閉めればエンジンならぬシステムが目覚める機能を採用。さらに「ちょっと先の未来」ではスマートフォンは重要アイテムだけに、スマートフォンをデジタルキー化。国産車で初めてスマートフォンだけで走行まで行える。

そのうえ、車を充電中にスマートフォンからエアコンを始動できるので、出かける前に車内を涼しく or 暖かくしておくことも可能。デジタルキーは家族など他の人のスマートフォンにも渡すことができる。

グレードはベースグレード(新車時の車両本体価格451万円)と、アドバンス(同495万円)の2種類。アドバンスは、ベースグレードに対してマルチビューカメラやプレミアムサウンドシステム、100V1500W電源などが備わる。
 

Honda e(初代)▲RRのため、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)の同サイズ車よりも車内を広くしやすい
Honda e(初代)▲ボタンひとつで縦列も並列駐車もできる「パーキングパイロット」は「アドバンス」に標準装備

他にもいろいろあるが、こうした「ライバルにはない」数々の機能を備えたことで、車両本体価格が高くなった。しかし、「Honda eは売れれば売れるほど赤字になる」なんて話もあったが、内容を考えればバーゲン価格だったと言えるだろう。

だいたい、コンセプトに沿ってこれだけの最先端機能を装備しているHonda eは、ちょっと先を見据えていた“コンセプトカー”と言っても良いだろう。コンセプトカーなのに買えるなんて、この車の最大の魅力じゃないだろうか。

そんなHonda eの中古車相場はどうなっているのか? 早速見ていこう。
 

 

各種補助金を考慮しても、中古車のお得感は高くなっている

Honda eの生産が終了した理由は、やはり販売不振だ。そもそも販売計画台数が“年間”で1000台とかなり控えめだったのだが、フタを開ければ3年間で売れたのはわずか約1800台といわれている。

売れなかったということは、中古車の台数も少ないということ。2023年12月月間の中古車流通量は51台しかない。
 

Honda e(初代)▲決してたくさん売れたモデルではないので、中古車流通台数は少ない

一方で中古車平均価格は、経年によって順調に値が落ち続け、2023年11月時点では約330万円と前年同期比で66.4万円も値落ちしている。あくまでも平均価格との比較だが、新車時からは約120万~160万円落ちたことになる。

新車時に利用できる国の補助金(CEV補助金)は55.1万円。さらに自治体の補助金制度も利用でき、東京都なら通常で50万円、再生エネルギー電力の導入で65万円、太陽光発電設備を備えると80万円補助してもらえる(いずれも個人所有の場合)。

例えば東京都で暮らしていて、自宅に太陽光発電も備えると、新車のHonda eを実質135.1万円引きで買えたわけだが、それよりも中古車の方が安く買えるようになってきたということだ。

原稿執筆時点のカーセンサーを見てみると、上級グレードのアドバンスがほとんどを占めている。平均価格は約323万円で、価格帯は約277万~432万円。デビューして約3年しか経っていないこともあり、平均走行距離は約1万kmと少ない。

だから、今ならコンディションが期待できそうな中古車が、新車の補助金制度適用後よりも安く手に入るというわけだ。

では、今Honda eは「買い!」なのか? もう少し検証してみたい。
 

 

「ちょっと先の未来」を今のうちに狙うのがオススメ

Honda e(初代)▲もはやコンセプトカーと言っても良いくらい個性的なHonda eだが、今後の中古車状況はどうなっていくのだろうか?

新車の販売不振の理由は、やはり「ライバルより走れなくて、価格は高い」ことにあったのは否めないだろう。

では、中古車で比べたらどうか? 2023年11月時点のリーフ(2代目)の中古車平均価格は188万円、サクラ(初代)が210.6万円。両車とも新車時の車両本体価格が安いため、Honda eより約100万円も手頃な価格で狙えるのだ。

だから「都市型コミュニティ」としての電気自動車を検討したい人にはサクラの方が、「長距離も走りたい」という人にはリーフの方が魅力的に映るかもしれない。

そうなると、Honda eの中古車の需要が高まる要素はあまりなく、中古車流通量が劇的に変化する要素もまたないので、このまま経年による値落ちがしばらく続くと思われる。

しかし、Honda eは「ちょっと先を見据えたコンセプトカー」だ。ホンダが考えていた「ちょっと先」の未来がやってくれば、改めてこの唯一無二の魅力をもつこの車が見直されるかもしれない。

ホンダには、過去にも唯一無二の個性をもったモデルがあったが、時が経ってから再評価され中古車価格が高騰するものも多い。例えば、30年以上も前に登場したビートはいまだに平均価格が約100万円もするし、約20年前のエレメントも約100万円、約15年前のクロスロードも約100万円……。

どうも平均価格が100万円ほどになると、ホンダ車の個性的な魅力に気がつくようだ。もちろん約2年前に生産が終了したS660のように、新車時とほぼ同等の約200万円で推移しているモデルもあるが……。

未来のことゆえ、決して断言することはできないが、Honda eは将来再評価される(=値上がりする)可能性が十分にあるモデルだと、筆者は考える。

「ちょっと先の値上がり物件」を買うのではなく「ちょっと先の未来」を、価格的にもコンディション的にもお得だと思える今のうちに狙うのをオススメしたい。
 

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文/ぴえいる、写真/尾形和美、ホンダ

※記事内の情報は2024年1月17日時点のものです。
 

ぴえいる

ライター

ぴえいる

『カーセンサー』編集部を経てフリーに。車関連の他、住宅系や人物・企業紹介など何でも書く雑食系ライター。現在の愛車はアウディA4オールロードクワトロと、フィアット パンダを電気自動車化した『でんきパンダ』。大学の5年生の時に「先輩ってなんとなくピエールって感じがする」と新入生に言われ、いつの間にかひらがなの『ぴえいる』に経年劣化した。