西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 アルファ ロメオ トナーレの巻
2023/05/31
好きなブランドゆえの辛口評価! ただデザインやサイズは効いていそうだが……
期待していたのだ。なんといっても大好きなブランド。ヴィンテージなら1950年代のジュリエッタスパイダー、モダンなら166や8Cコンペティツィオーネなどなど、過去に何度か所有したこともあるし、いまだに欲しいモデルがたくさんある。
ブランド初のSUV、ステルヴィオも特にクアドリフォリオは良かった。まるでスポーツカー。残念ながら我が家の車庫には(妻がドライブして出し入れするには)デカすぎて買わなかったけれど、それさえクリアになれば、と思っていたところに一回り小さいサイズのSUVトナーレが出ると聞いて……。
アルファ ロメオは2027年に全モデルをBEVにすると宣言している(それぐらいブランド経営が追い込まれている)。遅ればせながらその電動化戦略の第一歩としてトナーレは登場した。そのうえネーミングは、ステルヴィオがそうであったように、イタリア北部の有名な峠名に由来する。
ブランド初のハイブリッドモデル。これからフルハイブリッドやフルバッテリー駆動も登場するというが、まずは48Vマイルドハイブリッド仕様(MHEV)のFFモデルを投入し始めた。
最高出力160ps/最大トルク240N・mを発揮する1.5L直4直噴ターボエンジンに、20ps/55N・mというMHEV用としては比較的高出力な48Vモーター内蔵の7速DCTと0.77kWhのリチウムイオンバッテリー、そしてBSG(ベルト・スターター・ジェネレーター)を組み合わせた電動パワートレインを搭載した。
MHEVながら低速域(およそ15~20km/hあたり)は電気モーターで駆動する。負荷が大きくなるとエンジンが目覚める仕掛けで、アクセルオフではコースティングモードになる。BSGがエンジン始動と回生ブレーキを担った。WLTCモード燃費は16.7km/L。
ベースとなったアーキテクチャーはステランティスグループの「スモールワイドプラットフォーム」。フィアットやジープブランドの小型モデルですでに実績はあるが、ブランドイメージに見合ったダイナミック性能を実現するために、専用設計のストラットサスペンションや高剛性シャシー、ワイドトラックといったチューンナップが施されている。とはいえ、個人的にはあまり好きじゃないプラットフォームで……。
好みの問題とはいえ、見た目のデザインに車好きを引きつける力があることは確か。イル・モストロ(アルファ ロメオ SZのニックネーム)好きアルフィスタには感涙ものだろう。まずは欲しくなるデザインで、サイズ的にもうちの車庫にはぴったりハマる。
問題は乗り味。筆者がアルファ ロメオに求めるドライブテイストは“ごくフツー+α”。もちろん刺激があることに越したことはないけれど、デイリーカー候補なのでいつもワクワクさせてもらう必要はない。そういう意味でいうと、デザインでもっとワクワクさせてほしかったのだけれども、おそらく今のアルファ ロメオに冒険はできない。より多くの新規顧客に乗ってもらえるよう、きれいにまとめることが精いっぱいのように思う。
ドライブフィールにはがっかりした。エンジンそのものに魅力のないことはまだいいとして、モーターとの協調がイマイチ。できるだけ電動で走らせようとするのは分かるけれど、それゆえ余計にエンジンがかかってからの凡々さに落胆してしまう。刺激なく走る電動走行の後に、少しは刺激が欲しいと思ってしまうのだ。
シャシーの動きはなかなかのもので、ボディ骨格も頑丈、素材としてはいいと思う。だからこそ、一度、内燃機関だけ(2Lガソリンか1.6Lディーゼル)を積んだグレードにも乗ってみたいと思うのだが、電動化を宣言した手前、限られたリソースの中から日本導入グレードを決めると、そういったグレードの上陸は期待できないのかも。
なぜか刺激の足りないアルファ ロメオ……。それゆえたくさん売れることを期待したい。じゃないとブランドが終わってしまいそうだ。
自動車評論家
西川淳
大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。