▲埼玉県の中古アルピナ専門店「アウトグランツ」が販売する95年式アルピナB3 3.0/1 EDITION 30。価格は「ASK」ですが、想定価格を聞いてみたら結構お手頃なプライスでありました ▲埼玉県の中古アルピナ専門店「アウトグランツ」が販売する95年式アルピナB3 3.0/1 EDITION 30。価格は「ASK」ですが、想定価格を聞いてみたら結構お手頃なプライスでありました

「全幅1695mm」という衝撃

過日、埼玉県のアルピナ専門店「アウトグランツ」を訪問した際、かなり久しぶりにE36型のアルピナ、正確に言えば95年式アルピナ B3 3.0/1 EDITION 30のワンオーナー車を間近で見て、衝撃を受けた。ご承知のこととは思うがE36とは、90年代初頭から後半にかけて活躍した3世代前のBMW 3シリーズである。

何に衝撃を受けたかといえば、ひとつはその「小ささ」であった。まったくもって忘却の彼方になっていたことであったが、そういえばE36型3シリーズとは5ナンバーサイズであったのだ。具体的には全長4435mm×全幅1695mmであり、それはアルピナ B3 3.0/1においても変わらない。当時はそうは思わなかったが、今にしてみると本当に小柄というか可憐であり、それでいて圧倒的なオーラを放っている。

全幅1800mmオーバーの車ばかりがひしめき合う現代の路上にあっては「いいとこのおぼっちゃん」的な控えめ感にあふれているのに「下手すりゃ全幅1800mm超の車以上にグイグイくる」というような、強烈な存在感を感じさせるのだ。

▲95年式アルピナ B3 3.0/1 EDITION 30の内装。アルピナ創立30周年記念限定車ということで、シートは青のアルカンターラが採用されています。ステアリングのレザーなどは修復済み ▲95年式アルピナ B3 3.0/1 EDITION 30の内装。アルピナ創立30周年記念限定車ということで、シートは青のアルカンターラが採用されています。ステアリングのレザーなどは修復済み

このあたりのニュアンスは言語化がやや難しいため「オーラ」だの「存在感」だのというあいまいな表現で逃げているが簡単に言ってしまうと、要するに「金持ちっぽい」のだ。小柄な5ナンバーサイズであり、アルピナといっても中古車ゆえ、おそらくは総額200万円いくかいかないかぐらいの予算で買えるはずの車だ。なのに、1000万円級のベントレーやらアストンマーティンなどよりも、この古くて小さなアルピナに乗っている人の方が個人的には金持ちに見えてしまうのである。

結局は「ありがちじゃない」ということが重要なのだろう。オフィス街に行けば、襟が高い白シャツ+黒ジャケット姿の若いサラリーマンだらけなのと同じように、昨今の都市部は全幅1800mm超の大柄な高級車であふれかえっている。あまりにもありがちな光景であるため、今やそれらを見ても「あぁ、またですか」以外の感想は持ちようがない。しかし、そこにいきなり全幅1695mmの(元)高級車が現れるだけで、人は「おおっ!」と思うわけだ。ある種の異化効果である。

もうひとつ大切なのは「それが(ただ小さいだけでなく)本当の一級品であり、なおかつ最高に近いコンディションに保たれている」ということだ。単に5ナンバーサイズというだけなら街には安手のコンパクトカーが星の数ほど走っているわけで、E36型BMW 3シリーズも、さすがに少なくはなったがたまには見かける。見かけるが、特に感慨はないし衝撃もない。E36であることが重要なわけではなく「アルピナのE36であること」が重要なのだろう。

また、それを逆の点からとらえれば、アルピナだからこそ、20年前のE36が今なおビッカビカの状態を保っているとも言える。高価で希少なアルピナだからこそ初代オーナーは大切に扱い続け、そして販売店は丁寧にレストアする(実際この個体の内外装は合計100万円ぐらいかけてブラッシュアップされたのだそうだ)。素のE36では、残念ながらこういったケースは少ないだろう。

以上の考察をもとに考えると、今狙うべき「グッとくる輸入車像」のひとつが浮かび上がってくる。

重要なのは、まず第一に「5ナンバーサイズ」であることだ。いや、正確に全幅1700mm以下である必要はなく、多少オーバーしていても別にいいとは思うが、「だいたい5ナンバーサイズ」であることが、大柄な車があふれている現代においては逆にレアでステキな要素となるだろう。

そして第二に「それでいて高級」ということだ。「小柄なのにやたら高級」というのが、現代の路上をナイスな気分で過ごすうえでは非常に重要となる。で、そういった車は歳月を経た中古車となってもビカビカの状態で維持されている場合が多く、その「古いのにビカビカ」という点が、さらなる差別化となるわけだ。

そう考えたときに選択肢となるのが、まずは冒頭にも登場したE36型のアルピナ B3。

▲E36型BMW 3シリーズをベースとするアルピナ。写真はB8 4.6 ▲E36型BMW 3シリーズをベースとするアルピナ。写真はB8 4.6

写真は3L直6のB3ではなく4.6LのV8を搭載したB8 4.6だが、まぁ形は同じということでご容赦いただきたい。3Lないしは3.2LのB3は、B8 4.6Lほどの鬼パワーはないが、それゆえ逆に扱いやすいナイスな車だ。これの内外装をひたすらキレイに保って紳士的に運転していれば、「いいとこのおぼっちゃん」に見えるだろう。また、E36より1世代前のE30をベースとするアルピナの良質物件を見つけることができれば、さらに人生のステージはアップする。

もしもAMG 190E 3.2のフルノーマルに近い物件があればかなりステキだが、残念ながら極端に流通量が少ないため、現実的に探せそうな「5ナンバーサイズのナイス高級車」というと、E36型アルピナB3以外ではポルシェ 911のタイプ964になるだろうか。

▲89年から93年まで販売されたポルシェ 911のタイプ964。その全幅は最近の小型車より実は狭いんです ▲89年から93年まで販売されたポルシェ 911のタイプ964。その全幅は最近の小型車より実は狭いんです

全幅1660mmという、今となっては衝撃的に小ぶりなサイズである。ちなみにこの全幅は現行ポルシェ 911カレラに比べて150mm短いが、ホンダの現行フィットと較べても35mm短い。

以上の5ナンバーサイズ系元高級車だけが「今選ぶべきグッとくる輸入車」のすべてではもちろんないが、時代のモメンタムに合致していることは間違いないと思うゆえ、前向きにご検討いただけたなら幸いだ。

ということで今回のわたくしからのオススメは「5ナンバーサイズの元高級車」だ。

text/伊達軍曹