▲ガレージが中心で遊び心を取り入れたい……というのが第一の希望だったとのこと。この家には、忍者屋敷のような「なにコレ?」という仕掛けがたくさんあり、それも施主お父様と一緒にアイディアを出し合ったそう。また、住空間とガレージをあまり離したくなかったので、いろんな場所からガレージ内の車が見えるような工夫も。イメージとしては、ガレージ付きの家というよりも「ガレージに家がある」というような感じにした▲ガレージが中心で遊び心を取り入れたい……というのが第一の希望だったとのこと。この家には、忍者屋敷のような「なにコレ?」という仕掛けがたくさんあり、それも施主お父様と一緒にアイディアを出し合ったそう。また、住空間とガレージをあまり離したくなかったので、いろんな場所からガレージ内の車が見えるような工夫も。イメージとしては、ガレージ付きの家というよりも「ガレージに家がある」というような感じにした

秘密の扉や通路が遊び心をソソるレーシングガレージ

一見すると、ありがちなマニアックでレーシーなガレージ……という印象。 しかし、建築家の横尾さんが教えてくれたのは、大人でもワクワクするような秘密の扉や通路の存在だった

カーガイの多くは、歳を重ねても少年のような心を忘れないし、遊び好きでイタズラ好き。車の話をするときには眼をキラキラと輝かせて饒舌になる。そんな人々は、読者諸兄の周りにもたくさんいるはず。

今回、訪れたY邸を設計した建築家の横尾敦さんは、まさに絵に描いたようなカーガイ。そんな建築家が設計した家は、愛車との繋がりを考えるうえで「アレもやりたい、コレもしてみたい」と思ういろいろなことを、ほとんど実現してしまった…そんなイメージだ。

訪れた場所は千葉県市原市。都心からは車で東京湾岸をたどっても、アクアラインで湾を横切っても1時間程度の距離。周辺は、ここ20年ぐらいで一気に宅地開発が進んだ場所らしく、広く新しい街並みが特徴だ。そんな一角に、ひときわ目立つ白いボクシーなY邸があった。大通りから少し入った田園風景の残る環境で、閑静な住宅が整然と並ぶその突き当たりに、少し変形した土地形状にオフセットして建てられている。前庭のスペースは、車なら楽に10台は駐められるほどの広さをもつ。手前の外駐車場にはゴルフGTI、右手奥にはハマーH2と個性的な車が並んでいる。

さて、シャッターが閉じられたガレージ内にはどんな車が収まっているのだろうと、期待は膨らむ。シャッターを開けてもらう前に、玄関から邸内へ。広いリビングルームに直結している。まだ竣工直後のため、家具は揃っていない状態。新築のいい香りが漂う。ふと左手の大きなガラス窓を覗くと、その向こう側には薄暗いガレージが。照明をつけてもらった瞬間、鮮やかなイエローカラーをまとった2台のスポーツモデルが現れた。

タイプ993RSもディアブロSVも、どちらも丁寧に磨き上げられて飾られている…という印象ではなく、フロントマスクの跳び石キズやタイヤの様子を見ると、普段からそのモデルのキャラクターに相応しい走りをしていることが窺える。ガレージ内を見渡すと、壁面は贅沢にも外壁用のガリバリウムが用いられ、天井はポルシェ側がオレンジ、ランボルギーニ側がレッドに塗られている。さらに、天井からはサーキットのピットのようにモニターが2機吊り下げられている。これらが互いに相乗効果を発揮して、ガレージ内はレーシーな雰囲気満点。見た目だけではなく、エアコンプレッサーが壁に内蔵されていたり、ツール類を収納するスペースが効率よく確保されていたりと、実用性や機能性にも抜かりはない。

設計をした横尾敦さんは、建築会社の代表取締役でもあるのだが、実はこの家は、横尾さんのご子息の私邸。竣工からわずか1週間ほどしか経っていない。そんななか、無理を承知でお願いして取材をさせていただくこととなった。

レースフリークの親子でアイディアを出し合った

特筆すべき点は、ガレージ周辺にいろいろな仕掛けが施されていること。リビングルームの片隅にある書棚を押すと階段が現れ、そこを上ると秘密の隠し部屋に通じる廊下に至る。その隠し部屋はガレージの真上に位置し、まるで基地の司令室のような雰囲気。この隠し部屋に続く廊下へは、寝室のクローゼットからも潜り込むように辿り着けるというコダワリよう。どちらの動線も、教えてももらわなければ絶対にわからない。また、天地方向に十分なスペースが設けられているガレージには、天井近くに建築現場で使用する「足場」が設置されている。ここへは寝室のベッドサイドにある小さなドアからのみアクセスが可能。これらの造作はすべて、横尾さんのご子息の「忍者屋敷のような遊び心を…」が反映されている

ガレージに使われる素材やデザイン、色使い。さらに動線や遊び心満載の仕掛けなど、説明をしてくれる横尾さんの眼がキラキラと輝いている。おや?……と感じていたのだが、その疑念が確信に変わったのは、撮影のためにディアブロを少し動かしてほしいと依頼したとき。よしきた! と運転席に飛び乗ったのは、横尾・父。ガルウイングを手慣れた手つきで開け、見事なカウンタックリバースでセンチ単位の微修正をしてくれた。そう、ガレージに収まる2台のスーパースポーツは、実は横尾さんの愛車。邸内の仕掛けも、親子で相談しながら現実のものとしたとはいえ、どうやらお父様のほうが主導していた気配が濃厚だ。

以前はレーシングカートのショップを経営していたという経歴をもつ横尾さん。親子でカートレースにも参戦し、現在ではスーパーGTドライバーのサポートもしているというレースフリークでもある。レーシーな雰囲気に仕上げるセンスや、ただ飾られているだけではない愛車たちが放つ凄みも、なるほど……とうなずける横尾さんのプロファイルである。

▲ガレージ上部は、高い天井を生かし「足場」を使って寝室から繋がる通路が設けられている。実は、特に機能や目的はないのだが「なんとなく楽しそう」な造作。左手の長方形の窓はベッドサイド、右手の縦長の窓からはのどかな田園風景が望める▲ガレージ上部は、高い天井を生かし「足場」を使って寝室から繋がる通路が設けられている。実は、特に機能や目的はないのだが「なんとなく楽しそう」な造作。左手の長方形の窓はベッドサイド、右手の縦長の窓からはのどかな田園風景が望める
▲2階の「隠し部屋」からガレージを見下ろした景色。アルミ製のシャッターと赤い壁やツールボックスなどのコントラストが美しく、イエローボディの車と相まってレーシーな雰囲気を高めている▲2階の「隠し部屋」からガレージを見下ろした景色。アルミ製のシャッターと赤い壁やツールボックスなどのコントラストが美しく、イエローボディの車と相まってレーシーな雰囲気を高めている
▲寝室の広い窓からはガレージが見下ろせ、その脇のドアからは「足場」を通じてガレージ上空へ。さらにクローゼットの奥には、「隠し部屋」に通じる秘密の通路が…▲寝室の広い窓からはガレージが見下ろせ、その脇のドアからは「足場」を通じてガレージ上空へ。さらにクローゼットの奥には、「隠し部屋」に通じる秘密の通路が…
▲1階リビングルームの一角にある書棚は、押すとご覧のように2階に続く階段が現れる。「隠し部屋」に至る秘密の通路だ▲1階リビングルームの一角にある書棚は、押すとご覧のように2階に続く階段が現れる。「隠し部屋」に至る秘密の通路だ
▲秘密の通路には、2階寝室のクローゼットからもアクセスできる。通路側から寝室を見た様子。這うように出入りしなければならないが、それもまた一興▲秘密の通路には、2階寝室のクローゼットからもアクセスできる。通路側から寝室を見た様子。這うように出入りしなければならないが、それもまた一興
▲まるでサーキットのピットのようにモニターが設置され、レーシーな雰囲気を高めている。その上部のVIPルームがごとき窓は、秘密の通路かベッドルームの隠し扉からしかアクセスできない「隠し部屋」だ▲まるでサーキットのピットのようにモニターが設置され、レーシーな雰囲気を高めている。その上部のVIPルームがごとき窓は、秘密の通路かベッドルームの隠し扉からしかアクセスできない「隠し部屋」だ
▲ガレージ内の柱には、エアコンプレッサーが内蔵されている。実用性とデザイン性を両立させた、スーパースポーツに相応しい作りに感心させられる。コンプレッサー本体は、ガレージ隅の物置の奥に設置されているので騒音は気にならないる▲ガレージ内の柱には、エアコンプレッサーが内蔵されている。実用性とデザイン性を両立させた、スーパースポーツに相応しい作りに感心させられる。コンプレッサー本体は、ガレージ隅の物置の奥に設置されているので騒音は気にならないる

【スーパースポーツが収まる遊び心満載の家】
■この家は、土地が「ト」の字状で変形していることもあり全体のバランスを取るのが難しかったという。本来ガレージは道路と平行して設置するものだが、ガレージの存在を外に対して強調したくないため斜めのレイアウトとなった。平行であれば4台は入れられるガレージが完成したそうだ。ガレージ内部は、各部屋から見えることやガレージ上部の空間に実用性と遊びを取り入れた。足場を組んだのも、そのひとつ
■主要用途:専用住宅
■構造:木造軸組
■敷地面積:406.95平米
■建築面積:440.40平米
■延床面積:199.14平米
■設計・監理:株式会社 東創プランニングサービス + 稲葉設計
■TEL:0436-40-2100

text/菊谷聡
photo/木村博道


※カーセンサーEDGE 2015年6月号(2015年4月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています