▲メンテナンス用、日常使い用、ライフスタイル用と、3タイプのガレージを備えるガレージハウスは湘南方面でカーフリークから高い支持を集める建築家の自邸であった▲メンテナンス用、日常使い用、ライフスタイル用と、3タイプのガレージを備えるガレージハウスは湘南方面でカーフリークから高い支持を集める建築家の自邸であった

3つのガレージを使い分けるという贅沢

いくら自分で設計できるからといって、これはないだろう……。そうヒガミたくもなるような、玉造邸である。

EDGE読者諸兄のような車好きならば、自宅ガレージにはいろいろな思い入れがあるはず。リフトを設置し、エアコンプレッサーやツールも揃えて、休みの日には愛車いじりに精を出したい。好きなオートバイを好きなだけ集めて、コツコツとレストアしたい。趣味の道具やウエアを綺麗に整頓して収納できるスペースも設けたい。ノンビリと洗車ができる場所を、ガレージ前に確保したい。雨の日でも濡れることなく、ガレージから邸内へとアクセスしたい……などなど。挙げればキリがないが、これらを全部実現してしまったのが玉造邸なのである。

場所は横浜市某所。湘南方面へ向かう国道沿いに建てられている。周辺は自動車ディーラーやレストランなどが多く並んでいるのだが、そんな環境にあっても玉造邸は異彩を放っている。

正面から見ると、コンクリート打ち放しの壁面にウッディなレッドシダーの壁面が組み合わされ、クールななかにも温かみの感じられる外観が特徴。そして、なによりも目に付くのは、車のためのスペースが常識では考えられないほど整えられているということ。まるで集合住宅と見まがうようなボリュームだ。中央の玄関部分に2台の駐車スペース。そして両脇には、明らかに2台は並ぶと思われる横幅をもつガレージがふたつ。訪れた際には左右のガレージはウッディなシャッターが閉じられていたので、その中身がどうなっているのか、いやが上にも期待が高まる。

外ガレージに駐車しているのは、夫人用のクラウンと玉造さんが仕事用に使っている逆輸入車のトヨタ・タコマ。どちらもアメリカン・テイストたっぷりに仕上げられていて、クラウンもベンチシート&コラムシフトというマニアックな仕様。このイメージどおり、正面右側のガレージ内には、マニア垂涎のシボレー・エルカミーノが。そのほかサイズもカテゴリーもさまざまなオートバイがジェットスキーとともに格納されている。

玉造さんいわく、ここが「メンテナンス用ガレージ」だ。反対側のガレージは、ごく一般的なビルトインガレージの雰囲気で、レジャー用のハイエース・キャンパーとAMG G55が並ぶ。その背後には、マリンレジャー用のウエアやグッズなどが綺麗に整頓され、いつでもすぐに出かけられるようにスタンバイされていることがわかる。ここは「ライフスタイル収納ガレージ」。

このふたつのガレージは玄関を入ってすぐの廊下で結ばれている。2階から階段を下りてくると、正面の玄関扉を開ければ外ガレージの2台。右手にはAMG G55とハイエース。左手にはエルカミーノと多数のオートバイ。その日の目的に応じて動線が変わるというのも、さぞかし楽しいことだろう。

海に出ない休日は、メンテナンスガレージにこもる

建築家であり、建築会社の経営者でもある玉造さんだけに、この自邸はモデルハウスとしても利用している。ということで、2階のリビングスペースにもお邪魔してみた。コンセプトは「アジアンリゾート」。そう玉造さんがいうように、ウッディな雰囲気と豊かな自然光により、生活感のない空間が広がっている。

約40畳というリビングルームのなかで、まっ先に目に付いたのは、巨大なアイランドキッチン&カウンターテーブル。全長5m近くあるケヤキの一枚板は、運ぶのにも大人8人がかりというほどの重量物。さぞかし値も張るのだろうと下世話な質問をしてみたところ、予想どおり軽くサラリーマンの平均年収ぐらいでした……。それでも、これまでに3軒のクライアントが採用しているという。床にはブラックウォールナットという高級素材が使われ、壁は沖縄の珊瑚でできている漆喰だ。このように玉造さんの家造りは「本物の素材」を用いることで味わえる非日常や安らぎが基本的なテーマとなっている。

リビングルームから見えるテラスは、四方が家の壁面などで囲まれているので外界の建造物はいっさい見えない。ここから空を眺めていると、ふと自分がどこにいるのかわからなくなるような錯覚に陥る。バスルームもテラスに面しているから、まさにアジアンリゾートさながらの入浴が楽しめるというわけだ。

玉造さん率いる“solasio”は、湘南地区を中心に活動しているだけに、空と潮風をテーマにした住宅が多い。そのため本物の自然素材をふんだんに使い、多少コストはかかっても、人間に優しく長く暮らせる家造りにこだわっている。そんな思想に共感して、玉造さんに家造りの相談に訪れる人は絶えないという。そんな人たちがモデルルームとしてこの玉造邸を見学したとしたら、車に対する愛情や趣味を大切にするライフスタイルを目の当たりにし、人生を変えるほどの家に出合うことになるのだろう。

▲リフトを備えるメンテナンス用ガレージには、長年愛用するエルカミーノのほか、ジェットスキーやオートバイたちが所狭しと並んでいる▲リフトを備えるメンテナンス用ガレージには、長年愛用するエルカミーノのほか、ジェットスキーやオートバイたちが所狭しと並んでいる
▲CB750Kからゴリラまで、多彩なオートバイが並ぶ。奥の棚にはオートバイのスペアパーツやツール類が整然と並んでいる。海に出ない休日は、ここで過ごす時間が長いという▲CB750Kからゴリラまで、多彩なオートバイが並ぶ。奥の棚にはオートバイのスペアパーツやツール類が整然と並んでいる。海に出ない休日は、ここで過ごす時間が長いという
▲メンテナンス用ガレージの内部は、コンクリート打ち放しの壁面とウッディなガレージシャッターにより、クールな空気感が漂う。エアコンプレッサーをはじめ、ひと通りのツールが揃っている▲メンテナンス用ガレージの内部は、コンクリート打ち放しの壁面とウッディなガレージシャッターにより、クールな空気感が漂う。エアコンプレッサーをはじめ、ひと通りのツールが揃っている
▲2階から階段を下り左に向かうと「メンテナンス用ガレージ」。引き戸の玄関左手には、奥様用のクラウンが置かれる▲2階から階段を下り左に向かうと「メンテナンス用ガレージ」。引き戸の玄関左手には、奥様用のクラウンが置かれる
▲右に向かうと、「趣味の収納を兼ねたガレージ」に至る。引き戸の外には、玉造さん愛用のタコマが。エントランス周辺にも十分なスペースが与えられている▲右に向かうと、「趣味の収納を兼ねたガレージ」に至る。引き戸の外には、玉造さん愛用のタコマが。エントランス周辺にも十分なスペースが与えられている
▲サーフィン、ジェットスキー、クルーザーなど、海を中心に多彩な趣味をもつ玉造さんのアイテムが、所狭しと並べられている。丁寧に整理整頓されている様子から几帳面な性格がうかがえる▲サーフィン、ジェットスキー、クルーザーなど、海を中心に多彩な趣味をもつ玉造さんのアイテムが、所狭しと並べられている。丁寧に整理整頓されている様子から几帳面な性格がうかがえる
▲リビングルームは自然光がたっぷりと注ぎ込み、明るく開放的な空間。テラスからは外界の建造物は見えず、非日常感が味わえる▲リビングルームは自然光がたっぷりと注ぎ込み、明るく開放的な空間。テラスからは外界の建造物は見えず、非日常感が味わえる
▲ダイニングスペースで注目すべきは、全長5mのケヤキ一枚板。これをカットしてシンクを設え、カウンターテーブルとしても活用。また、薪ストーブは、その存在だけで穏やかで温かみのある空間作りに一役買っている▲ダイニングスペースで注目すべきは、全長5mのケヤキ一枚板。これをカットしてシンクを設え、カウンターテーブルとしても活用。また、薪ストーブは、その存在だけで穏やかで温かみのある空間作りに一役買っている

【カーフリークの理想を実現した家】
■ガレージのコンセプトは、「車やオートバイをいじるガレージ」「趣味の道具を収納するガレージ」「あえてシャッターを付けない普段使いのガレージ」という3タイプを共有させることだそう。住空間では、非日常が味わえるようなリゾートホテルをイメージ。とくにこの家は国道沿いにあるので、それを忘れられるような空間を意識したとのこと。そもそもオートバイなどをメンテナンスするときには、国道沿いの方が音を気にしなくていいとのことだ ■主要用途:鉄筋コンクリート+木造在来工法
■構造:木造
■敷地面積:274.55平米
■建築面積:159.82平米
■延床面積:292.10平米
■設計・監理:株式会社Solasio 玉造清之
■TEL:0446-35-7770

text/菊谷聡
photo/茂呂幸正


※カーセンサーEDGE 2015年6月号(2015年3月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています