▲まず、ウッディなオーバースライダーを取り付けたいということと、車が2台とオートバイ3台が入る広いスパンの柱のないガレージにしたいということを希望した施主。そのためには、木造に鉄骨を入れて補強する必要があり、これに合わせる設計を松永さんへ依頼したとのこと。そのほか、ピアノを置く位置は決めていたので、それを考慮したプレイルームを作った。ピアノの重量があるので、床も補強も万全とした▲まず、ウッディなオーバースライダーを取り付けたいということと、車が2台とオートバイ3台が入る広いスパンの柱のないガレージにしたいということを希望した施主。そのためには、木造に鉄骨を入れて補強する必要があり、これに合わせる設計を松永さんへ依頼したとのこと。そのほか、ピアノを置く位置は決めていたので、それを考慮したプレイルームを作った。ピアノの重量があるので、床も補強も万全とした

柱のないガレージスペースは和と洋を巧みにミックス

訪れたY邸は、東京都昭島市にあった。都心からのアクセスがよい立地でありながら、緑が豊かに残る土地。また、関東地方の「走り屋」にとってメッカともいえる奥多摩が至近にあるなど、車好きには絶好のロケーションだ。当初から、施主のYさんが根っからの車好きであることは伺っていた。現在の所有車はM6、X1、 i3。BMWで統一しながらも、キャラクターはそれぞれまったく異なる。そしてオートバイはBMW F650GSとカワサキのZRX1200改という男っぽい布陣だ。こう見ていくだけで、Yさんが「走り屋」であることがわかるというもの。

それぞれの愛車を選んだ理由を尋ねたところ、「走行性能やNAエンジンのフィーリングを考慮すると、もっともコストパフォーマンスの高いモデルがM6だと思います」とYさん。X1をチョイスしたのは、「最後のNA直列6気筒を搭載しているのが、このX1なのです」

BMW乗りらしく、NAエンジンやストレート6に対してこだわりをお持ちだ。この2台に加えて取材日前日に納車されたのが、デビューしたばかりのi3。このi3はBMW某店の第1号車というから、恐らく日本全国でも相当早い納車ということになるだろう。

「ショールームで見ていて、面白いなぁ……と興味をもったのです。試乗をしてみたら、モーターの力強い加速力に圧倒されました」 と、先進的なメカニズムとモーターによる圧倒的なパフォーマンスがお気に入りの様子だ。このi3は今後、奥様とゴルフに出かけるときなどに活躍しそうとのこと。

それほど車やオートバイにこだわりのあるYさんが建てたガレージハウスとなれば、これは興味津々。正面を占めている大型のオーバースライダーの存在感から、明らかにガレージ優先で設計されていることがわかる。事実、1階部分のほとんどは、愛車たちのためのスペースに充てられている。

フル稼働する3台の車と2台のオートバイ

ガレージに入ると、そこは6mという間口そのままの広いスペースが確保され、2台のBMWが余裕をもって並べられている。M6の長いドアも、さほど気を使わずに開閉できる。この広々感は幅6m×奥行き6mという面積だけからくるものではない。柱が一本もないのだ。普通は柱が何本か立ち並ぶ中、車の出し入れをするケースが一般的だが、Y邸はストレスフリーですべての愛車を出し入れできるのだ。

▲全幅約6mという巨大なオーバースライダーが、そのまま飲み込まれる広大なガレージ。この空間を実現するために、建築家・松永さんのノウハウが生かされている▲全幅約6mという巨大なオーバースライダーが、そのまま飲み込まれる広大なガレージ。この空間を実現するために、建築家・松永さんのノウハウが生かされている

設計を担当したのは、建築家の松永さん。ご自身が根っからのカーフリークであり、本誌にも何度かご登場いただいている。竣工とほぼ同時に納車されたi3にも興味津々の様子で、撮影時の車の移動も積極的にお手伝いいただいたほど。その松永さんとの出会いをYさんに聞いたところ、「現在私は、ジャパンガレージクラブという賃貸ガレージハウスの企画に携わっていますが、そのガレージハウスの設計を基本的にお願いしているのが松永さんです。そしてこの家は、車好きの借り主たちが将来的にガレージハウスを建てる際のモデルハウスになれば……と考えて建てました」

もともと大手企業の役員を務めていたYさんだが、話にもあるように現在では関係会社の相談役としてガレージハウスとも密接な関係。そんなYさんは設計にあたり、①木製のオーバースライダーを付けたい。②車2台とオートバイ3台を入れられるガレージと、外にカーポートを1台分。③ピアノを中心としたプレイルームを隣接……などを松永さんに希望した。

内装は、外観のイメージと同じようにウッディにまとめられている。とくに、書斎とプレイルームに繋がる引き戸からは「和」のテイストが感じられ、周辺はどこか「土間」のような雰囲気となっていることも特徴。この空間で最先端のBMWが充電している様子は、なかなか面白いコントラストだ。

▲ガレージと書斎は木製の引き戸で仕切られ、広く開放することも可能。ガレージ上の大きな梁は強度確保とともに、空間のアクセントにもなっている▲ガレージと書斎は木製の引き戸で仕切られ、広く開放することも可能。ガレージ上の大きな梁は強度確保とともに、空間のアクセントにもなっている
▲竣工直後なので、書斎周辺はまだスッキリしている。プレイルームと同じように設けられた横長の窓からは豊かな緑が臨める寛ぎの空間だ▲竣工直後なので、書斎周辺はまだスッキリしている。プレイルームと同じように設けられた横長の窓からは豊かな緑が臨める寛ぎの空間だ

オートバイのために、専用の出入り口が設けられていることもYさんのこだわり。オートバイと車がガレージを共有すると、よほどスペースにゆとりがない限りオートバイの出し入れには気を使う。しかし、建物側面に専用アプローチと出入り口があればスムーズ。面倒もなく思い立ったときにオートバイにまたがれる。「ふらりと1週間から2週間、旅に出ることもあります。ちょっとしたお使いでも、車より楽なのでオートバイで出かけますよ」 と、Yさん。絶好のロケーションで、好みの乗り物を気軽に乗り回せる環境が、本当に羨ましい。

かつて慌ただしく世界中を飛び回ったビジネスマンは、今では大好きな愛車に乗って自由気ままに日本中を走り回っている。

▲どちらも長距離ツーリングに向くBMWとカワサキ。ZRXは100ps以上にチューニングされているとのこと。大型オートバイが楽に3台は格納できる羨ましいスペース ▲どちらも長距離ツーリングに向くBMWとカワサキ。ZRXは100ps以上にチューニングされているとのこと。大型オートバイが楽に3台は格納できる羨ましいスペース
▲階段から見た風景。2階は障子の引き戸を開けるとリビング&ダイニングルーム。大きなガラスと木製の筋交いが、独特の雰囲気を作り出す▲階段から見た風景。2階は障子の引き戸を開けるとリビング&ダイニングルーム。大きなガラスと木製の筋交いが、独特の雰囲気を作り出す
▲Yさんご夫婦が弾くグランドピアノが設置されたプレイルーム。重量があるため床は補強されている▲Yさんご夫婦が弾くグランドピアノが設置されたプレイルーム。重量があるため床は補強されている
▲取材前日に納車されたi3。もちろん、ガレージには充電用のコンセントが設置されている▲取材前日に納車されたi3。もちろん、ガレージには充電用のコンセントが設置されている

【空間も動線もストレスフリーの家 設計・監理 エムズワークス 一級建築士事務所】
■広いスパンのガレージを希望されましたが、実はこれ、簡単そうで難しいんです。「サイドコア」といって玄関側とオートバイ収納スペース側とを固い構造にし、天井には太く強固な梁を渡してあります。サイドコアは、超高層ビルを設計する際の発想に近いものです。そのほか「和」のテイストを入れてほしいという希望でしたので、全体的にウッディなイメージにしたり、2階リビングルーム入り口は障子の引き戸を採用するなどしました
■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:379.45平米
■延床面積:181.65平米
■設計・監理:エムズワークス 一級建築士事務所
■tel:045-680-5339

text/菊谷聡
photo/茂呂幸正


※カーセンサーEDGE 2014年7月号(2014年5月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています