玉縄の家+水口裕之/水口建築デザイン室

景観が自慢のガレージ付き古民家

古民家をイメージしたというシックで落ち着きのある佇まいのH邸は外観の雰囲気とは違った機能的なガレージのある家だった

杉板の素材感を生かしたリラックスできる和な家

H邸は、古都鎌倉にほど近い閑静な住宅街にあった。施主であるHさんの希望が「古民家風の雰囲気に…」というだけあり、外観は典型的な木造建築。ただし、アルミ製のガレージシャッターが「中にはどんな車が…?」と見る者の期待を高めるアクセントとなっている。

案の定ガレージには、鮮やかなブルーで彩られたアウディS4アバントとレモンイエローのビューエルが美しく磨き上げられ並んでいた。壁面がオレンジに着色されているのは、外観とのギャップを楽しむ遊び心か。カラフルな空間や車の選択から、Hさんはなかなかお洒落で情熱的な方であるとお見受けした。ガレージの突き当たりにもシャッターを備え、開け放つと木立を抜ける風がスッと吹き抜ける。これによりガレージのキャパシティが増えるという実用性も見逃せない。

設計者は建築家の水口裕之さん。Hさんは自邸を建築するにあたり複数の建築家に相談をしたが、テレビ番組で水口さんの作品を目にしたことがキッカケとなり、おふたりは出会うことになった。設計にあたりHさんからの希望は、古民家風の外観、ピット付きガレージ、カウンターのあるキッチンなどであった。

この希望に応え、外観は杉の板材を焦げ茶色に塗装。「南京下見板張り」という日本家屋では古くから用いられている手法で組み上げ、より高級感を演出するために板の幅を通常よりも狭くしているという。ピットについてはコラムを参照していただき、ほかに水口さんがこだわった点は、

「環境のよさを生かした眺望です。L字型のキッチンを中心に、リビングからは桜並木が眺められるように。ダイニングからは家の裏手にある市街化調整区域の緑が臨めるようにしました」

邸内は、外観から想像するとおり安らぎと居心地のよさに満ちている。場所によって天井の高さを変えることで立体感や奥行きを与え、人の動線に応じて適所に窓を配置するなど細かい部分にまで手が行き届いている。

「リラックスしすぎてテレビを観なくなりました(笑)」

とH夫人。住み手が感じる安らぎはもちろん、通りがかりの方が「雰囲気のいい家ですね。久し振りにいいものを見せてもらいました」と語ったという素敵なトピックスも。道行く人も足を止める、そんなH邸であった。

「玉縄の家」
建築家:水口建築デザイン室

tel.045-243-3715 http://homepage1.nifty.com/eau/
所在地:神奈川県鎌倉市 主要用途:専用住宅
構造:木造規模:2階建 規模:2階建 敷地面積:190.93㎡ 延床面積:137.76㎡
設計・監理:水口建築デザイン室/水口裕之

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・茂呂幸正 photos / MORO Yoshitada

古民家っぽさを打ち出すために、杉板を用いてデザインしている。窓枠の下など場所によって木材の組み方を変えているほか、ガレージのドアなどが外観上のアクセントとなっている

ガレージはシャッターから出入りできるだけではく、玄関からの動線も確保。その途中に小さな書斎が設けられてい

L字型のカウンターを中心に挟むようにリビング(写真奥)とダイニング(写真手前)をレイアウト。Hさんは「重厚感のある木製家具が似合う空間を」とオーダーしたという

リフト付きのガレージに憧れていたというHさん。しかし、予算的な都合もあり迷っていたところ、フロアを掘る“ピット”ならばリーズナブルにできることを知ってリクエスト。約140センチの深さは、スツールに座ったまま作業ができるジャストサイズ。冬になると雪道を走ることが多いというHさんだが、春から秋にかけては、スタッドレスタイヤをピットに収めるなど、ガレージの整頓にも役立っている。